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自分の信徒を優遇する

 ファニール・シャンゼリオンは、普通の一般人と同じく、夜の九時前にはベッドで休む。


 そもそも、王都から遠いこの辺境の街には大した娯楽もなく、陽が落ちれば街中と言えども闇夜より多少、マシなくらいである。

 当然ながら、用もないのに自宅で起きていて、ランプの燃料などを無駄遣いするわけにはいかないのだ。


 それにファニールの場合、朝は四時には起きてまたみそぎと祈りの時間に入るので、そのためにも夜は早く休む必要がある。


 たった一人の教団と言えども、自身は神官の覚悟を持って暮らすファニールにとって、創造主ベルザーグへの敬意を払うことは、全てに優先するからだ。


 しかし……今宵は休む前に異変が起きた。


 ファニールが最後のランプを吹き消す前に、声が聞こえたのである。






『こ、これで届くはずだよな?(小声)えー、神官、ファニール・シャンゼリオンよ』


「えっ」


 ふいに聞き慣れない男性の声がして、ファニールは震えた。

 この家には、自分しかいないのにっ。

 慌てて起き上がり、薄いブランケットを胸元まで掻き上げる。

 すると、あたかもそのうろたえた姿を見ていたかのように、さらに声が続けた。


『怯えずともよい。私は、おまえが信奉する創造主、ベルザーグである。今宵は、おまえの信心に応えるためと……警告を成すために、あえて声をかけた』


「ま、まあっ」


 雷光に打たれたような気分で、ファニールは慌ててベッドを飛び出し、板の間にひざまずこうとした。しかし、大神の声が機先を制した。


『待て待て。今宵は冷えるはずだぞ。風邪を引いてはいけないから、ベッドに座ってブランケットで身体を覆ったまま聞きなさい。特に許す』

「わ、わたしのごとき者に、そのようなお心遣い……もったいなき言葉でございますっ」


 思わず口元を覆い、ファニールは溢れる思いをなんとか隠そうとした。

 さもなければ、感激の涙がとめどもなく溢れ出てしまい、話を聞くどころではなくなってしまうからだ。


『私にとっては大事な信徒のおまえを心配するのは、当然である。いいから、楽にして聞きなさい。……まず、今宵はおまえを狙う不埒ふらち者二人が、戸外で機会を窺っている。もう間もなく、押し込んでくるであろう』

「う、うちにはお金などはございませんがっ」


 驚いたファニールが問うと、大神の声に苦いものがまじった。


『金だけが世の悪党の狙いとは限らぬ。おまえ自身が魅力的な存在故、その身を汚そうというつもりらしい。その後、売り払う気でいるようだ』

「わ、わたしは、まだほんの子供ですのに」


 呟きつつも、ファニールは過去のあれこれを思い出していた。


 そう言えばここ最近になってから、街でふいに身体に触れてくる男性が増えた気がする。偶然を装うことがほとんどなのだが、この前などは、信仰を呼びかけるために手作りして書き上げた紙を配っていたところ、受け取った者の一人がお尻を撫でていった。


 ま、まさかあれも、そういうことだったのだろうか。


『ふむ、得心がいったようだな。ならば、今後は注意するといい。今宵は私が、街の警備隊の詰め所に声をかけ、男達を捕らえるように命じた。もうすぐ、警備隊の誰かが訪れるやもしれぬが、その時は素直に「わたしも神の声を聞きました」と話すといい。わかったな?』

「は、はいっ。重ね重ね、もったいなきお言葉ですっ」


 諭されたのを忘れてまたベッドから飛び出そうとしたファニールを、笑みを含んだ大神の声が止めてくれた。


『だから、身体が冷えるから、そのままでよいと言ったぞ。……ただし、一時間ほど経てば、服に着替えておくといいな。おそらく、警備隊が訪ねてくるはずだから』

 

 少し考えた後、一郎は「では、今宵はひとまずさらばだ」と告げ、話を終えた。





 同時に、ベッドを飛び出した生真面目なファニールを画面に見つつ、ゲーム内の時間を一時停止させる。


 元々は、レベル100魔法の「タイムストップ」にヒントを得て作った機能だが、こういう場合は便利である。


「ついでだ、身を守るためのアイテムをごっそり渡しておくか。これで、俺からの贈り物だとわかるだろうしな」


 一郎はぶつぶつ言いつつ、少し迷いはしたが、「ええい、今回だけ特別だっ」と喚き、ファニールのステータス画面を開いた。


 素早く、神官レベルを1からいきなり30に引き上げた。


 これはアイテム装備のために必要な処置だったが、ホントは三桁越えまで引き上げようかと思ったほどだ。

 しかし、それで万一にも増長するとまずかろうと思い、そこまでに留めた。


 さらに「粗末な衣服×2」という寂しいアクセサリー欄に、使用最低レベルが「レベル30」の上級アイテム、「 パーフェクトリフレクション」を放り込む。


 そもそも、レベル30に無理に引き上げたのは、この装着のためも同然である。


 しかしふと考えて、一郎はもうその場で速攻、本人にこのアイテムを装備してやった。後でノートにでも説明文を書いて、目につくところにでも置いてやればよかろう。


 こうでもしないと、この子はせっかく授けたアイテムを、神棚に飾って拝みそうな気がする。


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