魔王ヴァレリー、仲間(信者的な意味で)の存在を知る
石像のごとく立ち尽くしヴァレリーに、少年が不思議そうに続ける。
「今宵零時過ぎの作戦のためにしては、到着がお早いですね」
「え、ええと……」
ヴァレリーのらしくもないわたわたした様子を見て、彼はようやく腑に落ちたように苦笑した。
「あ、そうか……これは失礼しました。貴方様はまだ我々のことをご存じないわけですね。僕
は既に何度か貴女のことをベルザーグ様からお聞きしていましたし、立場とお役目の重要性もよく知っています。まずは自己紹介を致しましょう」
そう述べると、彼はわざわざ受付の席を立ち、低頭した。
「アリオン・ベルクレフトと申します。このギルドのマスター代理であり、ベルザーグ様の手足となって働く者です。以後、どうぞお見知り置きを」
「そ、そうでしたかっ」
慌てて会釈を返しつつ、ヴァレリーは己の迂闊さに歯がみする思いだった。
考えてみれば、むしろ当然である。
創造主様のお膝元のギルドで、こうして重要な役目についているということは、当然ながら、ベルザーグ様の正体とその活動を知っているはずなのだっ。
(どうも私はベルザーグ様関連では、迂闊に過ぎるな。竜頭蛇尾、あの方のことしか考えていないから、こういう弊害が出るのだろう)
知力の高いヴァレリーは冷静に分析していたが、しかしこればかりは、わかっていてもどうにもならない気がする……自分でも説明し難いが。
――おそらく、彼女が未だ会ったことがないブレイブハートのシャロンに言わせれば、「そういうのは、恋は盲目というのですわ」と断じただろう。
しかし、ベルザーグへの信仰心と崇拝心が厚すぎるヴァレリーは、それは畏れ多いこととして、考慮にも入れていない。
とはいえ、考慮に入れようが入れまいが、自身の感情はごまかせないので、ちょくちょく胸が苦しくなったりする。
ともあれ、ヴァレリーがなんとか落ち着きを取り戻そうとしている時に、例の龍族の幼女が立ち上がり、はにかんだ笑顔で彼女を見た。
「そしてエステル――いえ、私はエステル・グランベールと申します」
初対面のヴァレリーは知らないが、他人に対しては割と礼儀正しいエステルが、可愛く頭を下げる。
「私も、よくここでベルザーグ様から、魔王さんのことをお聞きしていました。お会いできて嬉しいですぅ」
「――なんと! おま――いや、貴女も」
しかも口ぶりからして、どうやらこの子はギルド登録の冒険者と見える!
ヴァレリーはつい先程、「美味そうな子だな」とか思ったのを、深く反省した。
「これは知らずに失礼した」
幼女と言えども礼儀を欠かないよう、ヴァレリーは差し出された手をそっと握る。
まさか自分が、普段は餌か外敵として見ている龍族と、こうして握手する日が来るとは思わなかったが。
しかし、相手がベルザーグ様の知己であり、しかもギルドの先輩でもあるとなれば、全然話は別である。
ヴァレリーの胸中で、いきなりエステルが「美味そうな子」から「ギルドに属する先輩幼女」に格上げされた瞬間だった。
「さすがに、ここで雑談するのはまずいですね」
やりとりを見ていたアリオンが、破顔して言った。
「ご訪問の事情もお聞きしたいし、地下の部屋で語り合いませんか? ベルザーグ様がご休憩に使う特別な場所で、ギルド所属メンバーも入れないんですが――ヴァレリー様なら、ご招待してもベルザーグ様は怒りますまい。エステルや僕もよくそこで雑談に興じています」
「それは……お気遣い痛みいる……よろしければ、ぜひとも」
言葉だけではなく、ヴァレリーは大いに感謝していた。これで私も晴れてここの仲間だ!
きっと、後で冒険者登録もしてくれるはず……はず!
心中で、密かにガッツポーズを取る。
「じゃあ、行きますか。あ、ちょっと受付を代わってもらえますか?」
あの謎メイドではなく、他のメイドの誰かに声をかけ、アリオンは先に立って歩き出そうとした――が。
しかし、途中でふと思い出したように足を止めた。
「そうだ、ファニールさんとエレナさんも、よければご一緒に!」
「はい?」
「……わかりました」
(こ、この者達もか!)
呼ばれた二人がそれぞれの反応でこちらを見た時、ヴァレリーは新たな驚愕にまたしても目を見開く羽目になった。
歩み寄ってきたのは、ヴァレリーが注目した美貌の神官と――そして、やたらと目つきの鋭い例の底知れぬ雰囲気のある美人メイドだったからだ。




