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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第四章 真の拠点は蒼天にあり
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ブレイブハートが世界の変革を誓う



 ローランドに諜報活動を任せた後、ベルザーグはそれに伴う連絡を方々へ済ませた後、ようやく朝までの短い時間、休むことができた。


 目覚めた時は睡眠が足りないせいで少しふらついていたが、ヒーリングウォーターを飲むことで急場を凌いだ。

 ヒーリングウォーターは要は有名ゲームのポーションと同じだが、傷だけではなく、既存の病や精神的な疲労をも癒やしてくれる。

 もちろん、万能ではないの効果を過信するのは禁物だが、使うのと使わないのとでは、大違いである。


 それにベルザーグは、ヴィオランディス世界内に現存する高レベルアイテムのほとんどを、密かに自分のマジックボックスに蓄えて持ち歩いている。

 当然、所持しているヒーリングウォーターも、現在ある最も効果の高いものである。

 それを小瓶から一気に飲むと、ベルザーグは思わず目を見開いた。


「おお! フルダイブ状態で使うのと、もはやこの世界に生の肉体を持つ今の状態で使うのとでは、驚くほど違いがあるな」


 所詮、ゲーム上だと数値の回復にしかならないが、今の生身状態だと、身体に溜まった疲れがすうっと抜けていくような心地よさがあった。


「明日はいよいよヴァレリーの帝都攻略だが、その前に、大事な子に会ってくるか。なにしろ、帝国東部を任せるわけだしな――ちょうど、卒業式が始まる頃だ」


 元気を取り戻したベルザーグは、時間を確認してから、その場で転移した。






 問題の子は、カルランデス王国の没落貴族の家に生まれている。

 幸いにして、長らく地方の領主を務めた家柄でもあり、実家は今でも街有数の資産家だったりする。


 魔法全盛の帝国とは違い、この王国は遙か昔に滅んだとされる第八時代(今は第九時代)の兵器を発掘して防備を固め、さらに召喚術に長けた戦士が多い。

 とはいえ、日に日に魔法の奥義を極めていく(ように見える)帝国に危機感を感じ、現在のカルランデス王は、三年前に魔法学校を建設し、自国でも優秀な魔法使いを育成しようと試みているところだ。


 ……魔法だけではなく、剣技をも教科に含む魔法学校は、実力のみを目安に生徒を募り、下は平民から上は王侯貴族まで、一切の区別をせずに優秀な生徒達を集めたと言えるだろう。


 脱落者も笑えるほど多かったが、とにかく開校後三年が経ち、ようやく開校以来最初の卒業式を迎えることになったわけだ。





 日本で言う体育館のようなものを想像するより、おそらくゴシック様式の馬鹿でかい聖堂を想像する方が早いだろう。

 ベルザーグが、その見上げるほど天井の高い卒業式会場に潜り込んだ時、タイミング的にはまさにギリギリだった。


 なにしろ、卒業生代表が前方に設えた絨毯敷きの壇上へ上がり、関係者を前に卒業の挨拶をするところだったからだ。


 中央の、整然と並んだブレザーの制服着用の卒業生達と、それに左右の関係者席を埋め尽くす、生徒の両親達、さらには王室の関係者多数――そんな大群衆と向かい合った時、そこにいた誰もが息を呑み、そしてため息をついた。

 おそらく、トップの成績だということを別にしても、彼女ほど「卒業生代表」にふさわしい者はいないだろう。


 ベルザーグの贔屓目ひいきめだけではなく、一瞬の静寂の後でざわつく周囲を見れば、皆同じことを思っていると知れる。

 金糸のごとき長い金髪に碧眼、そして気の強さと覇気を示す上がり眉に、見る者が必ず心奪われる、美しい切れ長の瞳。

 全てが計算されたように完璧な配置の上に、少なくとも総勢五百名に近い聴衆を前にしても、いささかの緊張感も感じられない。


 ただし、なぜか彼女はすぐに話し始めようとしなかった。


 厳しい表情で左右をざっと眺め、沈黙の長さにざわつき始めた聴衆など、てんから無視し、ひたすら周囲に視線をさまよわせている。

 そして、ようやく最後尾のスーツ姿の青年――つまりベルザーグを見つけ、ぴたりと視線が止まった。


 そのまま睨むようにこちらを見据えていたが、ベルザーグが一年も放置した謝罪の代わりに、冗談まじりに胸の前で両手を合わせると、ようやく鮮やかな色の唇が少しだけ綻んだ。


 やっと本来の聴衆達を見やり、おもむろに語り始めた。



「……卒業式の挨拶で長々と演説することほど、愚かなことはありません。ですから、わたくしの挨拶はごく短いものです。どうぞご安心を」



 いきなりそう告げると、そこでざっと皆を見渡す。

 透明感のある声と、その意外な挨拶に対し、たちまち皆の視線が殺到する。

 それに対し、またしても彼女は数秒ほど間を置いてから語った。


「無事に今日という日を迎えたわたくし達百名は、なんのために本校を巣立つのでしょうか? 言うまでもありませんが、あえてここに宣言しましょう」


 大きく息を吸い込み、両手を広げてりんとした声で叫ぶ。


「もちろん、この世界を変えるためです! 闇を払い、新たな時代、新たな光ある日々を迎えるためにっ」


 それ自体が光を放つように見える碧眼が、またしてもベルザーグをまっすぐに見た。



「神は常に我と共にあり! 創造主ベルザーグよっ。貴方のしもべたる、シャロン・アルフレール・オルレアンは、ここに誓います。変革のための第一歩を、わたくしは今ここから始めますと!」



 これほどの距離がありながら、まるである種の力の波動を感じさせる瞳に、ベルザーグは密かに思う。

 事実、おまえはそういう運命を背負った子だとも。



 なにしろ、世界を救うための勇者――ブレイブハートとして設定された子なのだから。


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