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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第三章 侵略される世界
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僕の犬にする


「ほら、行くぞ!」


 言われ、双子の姉妹は呆れたような顔をしつつも、外に出る。


「もう、ルティカは無茶するなあ」

「本当だよ!」


 レミとレナが小声で述べる。

 それでも、三人がそっと鉄扉に近付こうとしたその時――。





『なるほど、ベルザーグ様の前では違う人格を演じていたというわけかい。いや、それともそういうギフトやスキルなのかな』



「なっ!」

 ルティカと呼ばれていた女兵士がぎょっとしたように声を上げかけ、慌てて口元に手をやる。

 反応しているだけまだマシな方であり、双子の姉妹などは驚きのあまり棒立ちになっていた。


『ああ、大声出したって平気さ。僕が呼ばない限り、誰も入ってこない。……言っちゃ悪いが、監視の目が外の彼だけだと、本当に信じてたのかい? ベルザーグ様はそんな甘いお方じゃない。実にチョロいな、君らは』


 冷静な声で罵倒するその言い方は、明らかに先程のルティカの真似をしたものであり、仕返しなのだろう。

 しかし……さほど広くもない地下牢を見渡しても、問題の相手の姿が見えない。


 これはどういうことか!


『透明化の能力は、僕に発現した特殊能力、つまりギフトでね。装備したり外したりが可能なスキルとは、また違うものさ。……それはともかく、今後の君達の尋問は、これまでより遙かに厳しいものになるだろうね。特に僕は、ベルザーグ様をそしるような言い方をした者に、容赦ないタチだ。覚悟しておくといい』

「姿を隠したまま、ベラベラと余計なことをっ」


 ルティカは苛つき、双子を振り向いて叫んだ。


「ほっといて逃げるわよっ」


「そ、それがっ」

「動けないの!」


「なにっ」


 牢の前で突っ立ったまま、二人は動揺が滲む声で言う。


「なにかの術にかけられたみたいっ。ルティカだけでも逃げて!」


 姉のレナが悲痛な声で叫び、ルティカも一旦はそうする他なしと見て身をひるがえしかけた――が。

 このままでは、双子が尋問されて、洗いざらい白状させられる気がする。どうせ自分達が持っている情報はそう大したものではないが、それでも一般兵士と違い、本国の戦力などにはかなり詳しい。


 そこに思い至った途端、ルティカは決断した。

 素早く一番近いレミに近付き、叫ぶ。



「レミ、許せっ」

「な、なにがっ――ちょっと!」


 首に手をかけ、自慢の剛力でへし折ろうとした。

 寸前で、レナがルティカの意図を察し、さすがに金切り声を上げた。


「妹になにする気よっ」

「こうする他ないっ。おまえも今のうちに覚悟を決めろっ」


 次はおまえだからっという意味だったのだが……どのみち、無駄だった。

 なぜならレミの首に手がかかる寸前で、ルティカまでが動けなくなったからだ。


「な……なっ……」





『君は馬鹿か? 僕がいるのに、そんな勝手を許すわけないだろ』


 若々しい声がして、ルティカの眼前の大気が揺らぎ、ダガーを手にした少年が姿を見せた。

予想より、驚くほど若い。

 片目が隠れるほど前髪の長い黒髪と黒瞳を持ち、線の細い美しい少年だった。白いシャツにクラバットを着け、下ろし立てのように見える真新しいズボンを穿いていた。


「ちなみに、君らが動けなくなったのは、シャドウリストリクションという、これはれっきとしたスキルだね。狙う相手の影にダガーをぶっ刺すだけという、お手軽かつ、使い勝手のいい術さ。ただそれだけで、敵は動けなくなる」


 右手で銀の刃のダガーを弄びつつ、世間話のように言う。

 ただしその間も終始、嫌悪に満ちた目でルティカを睨んでいた。


「情報漏れを防ぐために、仲間の口封じかい? いやぁ、見上げたものだね、凄いね。軍人のかがみじゃないか」


 棒読み口調で述べた後、底冷えするような声で宣告した。





「……なんて言うわけないだろ、クソ女」


 足元にべっと唾を吐く。


「あいにくだが、そういうのは僕の美意識が許さない。お陰で君の運命は自動的に決まった。ベルザーグ様のお許しを得てから、僕の犬になってもらおうか。もちろん、お大事な祖国を崩壊させる方向で、せっせと尽力してもらう」


「ナメるなっ。だれがそんな真似をするものかっ」

「言ったろ、君の意志は関係ないと」


 すっと手を伸ばすと、彼はトンッと指で軽くルティカの額を突く。

 途端に、ルティカの意識は砕け、へなへなとその場に倒れてしまった。


「……チョロい雌犬だな」


 少年は侮蔑の声で言い捨てたが。

 そばにいた双子の姉妹は、そもそも仲間に殺されかけたショックで、彼女を気遣うような余裕はなかった。


「ベルザーグ様は慈悲深いお方だ。この犬と違い、君達はまだ、そのお慈悲に縋る道があるよ?」


 まだ名も知らぬ少年が、甘い毒を吹き込むように囁いた。


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