売り飛ばしちまおうぜ計画
あの年齢の女の子で細身は別に珍しくないが、それにしてもファニールは、かなりの痩身である。多分その理由は、毎日、ろくに食べられていないからなのだろう。
市場でリンゴを買ってたようだが、あれが彼女の今晩の食事になるような気がしてならない。
「昔流行した、リンゴダイエットじゃないんだからっ」
一郎は一人で呻く。
だいたい、今のあの子にダイエットの必要なんざ、微塵もない。
むしろ、栄養が足りなくて胸が小さくなるような気がして、心配なほどだ……余計なお世話だが。
これは……なんとしても彼女に援助し、まともな生活を送れるようにしてあげねばなるまい。もちろん、援助といっても援助交際ではない。
「ひ、ひとまず、一番簡単そうだし、こっそり所持金増やすか? いやしかしなあ、それだと真面目そうなあの子は、交番――じゃなくて、街の警備隊にとかに届けるんじゃないか? やはり声をかけてやった方がいいか」
しかし、声をかけるといっても、どういう立場でやればいいのか。
自分こそベルザーグだと言って、彼女の前に現れるか?
どうせβテストを見据えたテストプレイとして、既にプレイヤーとしてのベルザーグは、いっぱしの冒険者としてゲーム内に存在する。
むしろ、全てのNPCよりぶっちぎりで高レベルだろう。
なにしろ、最初期からプレイしているわけで、NPCと言えども、他者が追従する余地などない。
ファニールが義憤を感じていた通り、大神ベルザーグには教会すらないほどなので、冒険者名としてベルザーグと名乗っても、特に不都合はなかったのだ。
「う~ん……て、あれ?」
考え込んでいる最中、ふと、ファニールの家の近所をうろつく人影に気付いたのである。
既に日が沈んだ通りの隅に陣取り、僻地といっていい場所に建つファニール宅を遠目に見ている。
なにか嫌な予感がして、一郎は彼らを拡大表示した。
「……うわぁ、なんという凶悪なツラ」
これは多分、二十パターン作ったうちの、極悪要素ばかりを混ぜた人格だろう。
そいつらの会話も、スピーカーから洩れてきた。
「――つまり、邪魔は入らないわけだな?」
髭ダルマみたいな男が、ふいに言う。
「おうよ。一人暮らしだしな。あの家に住んでいるのは、マジであのメスガキ一人だ。妙に神様かぶれしてやがるし、ちぃーとやせっぽちだが、それでも胸はちゃんとあるし、尻の肉付きも我慢できないほどじゃねー。なにより、ご面相は聖女かっつーほどハクいからよ」
こちらは痩身黒衣の男が、涎を垂らしそうな顔で言う。
「念のため、あと二時間ほどして警備隊の巡回も過ぎた頃、押し込もうぜ。なんならぶん殴って気絶させ、その場で一発犯っちまってもいい。どうせ売り飛ばすにしても、前金的な感じでな!」
「おお、いいなそれっ。素っ裸で縛り上げれば、ガキも途中で運命を悟って大人しくなるわなっ」
「あの神様馬鹿の子なら、絶対に初めてだろうし、久しぶりの初物だなああ……くくく」
「おうよ。とりあえず今晩は、交代で朝まで絶賛、中出し競争だよなっ」
「具合よければ、売り飛ばした後も会いに行ってやればいいしな!」
『けけけっ』
ズボンの前を膨らませた二人は、同時に獣じみた笑みを洩らしていた。
「こ、このクソッタレ共があああっ。お、俺のファニールにっ」
いつの間にか、自分のものになっているのは置いて。
スピーカーから聞こえる極悪な相談に、一郎は思わず血管切れそうになった。
これほどドバッと頭に血が上ったのは、このゲームのメインプログラマーが途中で逃げて、開発計画が白紙に戻りそうになった時以来かもしれない。
NPCが自儘に動くと、こんな反動が出るとは思わなかった!
ここは一つ、必殺「一括選択消去で、さくっと皆殺し」技を使おうかと思ったが……しかし、あの子の類い希な美貌からして、似たようなことは、今後も起こり得る気がする。
年齢的にも、今後は危なくなる一方だろう。
つまり、本人に警告して対処させた方がよい。
……もちろん、自分もついでに感謝されたいという、一郎の思いも半分入っているのは、言うまでもない。




