東京ドーム三十個分
俗に東京ドーム○個分というが、目の前の白濁ドームは、優に東京ドーム三十個分はありそうだ。
不思議なのは、この辺りは辺境もいいところなので、アレがカバーしている場所には特に民家などはなかったはず、という点だろう。
こんな場所に巨大な魔法防壁などを作り、敵が何をしようとしているのか謎である。
二人で眼前の白濁した巨大ドーム球場みたいなのを眺めるうち、抱っこされていたエステルがふいに身体を持ち上げ、わざわざこっちの首っ玉にかじりついてきた。
思案中だったベルザーグは、十二歳とはいえ、ドレス姿の女の子にいきなり正面から抱きつかれ、声が上擦りそうになった。
「ど、どうしたの?」
どうもこの子は、ベルザーグを親代わりだと思っているせいか、肉体的接触に全く禁忌がないのが困るような嬉しいような。
胸が微妙に当たるし。
まあ、今は空中に浮いている状態だから、この子も声が聞こえやすいようにそうしただけかもしれないが。
「ベルザーグ様ぁ、エステルが攻撃しましょうかっ」
頬をすりすりさせるついでのように、エステルが提案する。
「いや、まず私が試そう」
ベルザーグはきっぱりと言い切る。
とりあえず、この白濁色のドームがいきなり攻撃に対して過剰な反応をしないとも限らない。危険がないかまず自分が確かめる必要があるだろう。
「初めての遭遇だし、危ないからね」
「……はぁい!」
心配してもらったのが嬉しいのか、にぱっと笑み崩れ、エステルが邪魔にならないように離れてくれた。
変化すればホワイトドラゴンの形態が可能だけに、この子は空中だろうと誰よりも自然に飛行できるのである。ベルザーグが抱いていたのは、単にエステルの意思に過ぎない。
(よ、よしっ。まずは攻撃魔法で試すか……最初から敵を甘く見るのはまずいから、手抜きナシで行くぞ)
「最初からトランセンダンスマジックで行く!」
発動にレベル100以上が必要となる「超越魔法」は、例外なくこの部類に入る。
今のところ、全ヴィオランディス世界を通じて、神族かベルザーグしか使用できない。どれほどの天才であろうと、レベル100がこれまでの成長限界だったからだ。
ただし、世界の危機を憂うベルザーグが、ヴァレリーとエステルの才能限界を引き上げたので、今後は彼女達も使えるようになるかもしれないが。
魔力の集中でベルザーグの身体が膨大なマナを帯びて光り輝くのを見て、エステルが「うわぁ!」と子供っぽい歓声を上げた。
これでさっぱり効果がなかったら、いい恥さらしの気がする。
「効果範囲指定っ」
ベルザーグは、指示と同時に眼前にオートで立ち上がった透過マップ画面のうち、邪魔くさいドームを手でなぞるようにして、きっちり全部指定した。
これで、攻撃魔法の余波さえ己で防げば、他に被害が及ぶことはあるまい。
ひとまず、レベル120魔法(使用可能な最低レベルが120)でいくっ。
ベルザーグは覚悟を決め、大声で叫んだ。
「行くぞっ、グラヴィティエクスプロージョン!」
重力系のレベル120破壊魔法を叩き込む。
発動の直後、一瞬だけドーム全体を巨大な黒影が覆ったように見えた。
半瞬置いて、ドォオオオオオンンッという言語道断な炸裂音というか、爆発音が轟く。
空間そのものが揺らぎ、腹の立つドーム全体にモロに影響が出た。
具体的には、上空から超巨大なハンマーを叩きつけたような有様になり、ドーム状のシールドがベシャッとひしゃたように見えた。
次の瞬間、圧力を受け止め切れず、ぱっと謎の魔法防壁が消滅する。
「エステル、来なさいっ」
「はいっ」
ぱっと抱きついてきたエステルをしっかり抱き締めた途端、破壊の余波がゴオッとベルザーグ達のところまでやってきた。
大気がビリビリ震え、下界の大地が大揺れに揺れたのが見えたが、幸い、過疎地なので別段被害はない……と思う。
「よし、これで見えなかったシールドの向こうが見えて――」
言いかけ、ベルザーグは唖然として向こう側を見つめた。
「あ、あれはっ」
「ベルザーグ様、巨大な飛行船みたいなのが三つ!」
ベルザーグと同時に、抱かれたエステルが叫ぶ。
そう、白濁した防壁の向こうには、どうも空中に馬鹿でかい飛行物体が三つも浮かんでいたらしい。映画インデペンデンスデイに出てくるアレほどデカくてはないが、大きさとしてはこれも一隻が東京ドーム一つ分くらいはあるだろう。
円盤形状ではなく、どっちかというと鋼鉄製の戦艦みたいに見えた。
そんなのが三つ、攻撃魔法の効果範囲直下にいたせいか、モロにダメージを受け、煙を上げつつ墜落していく。
どういう世界から来たんだこいつらっ、という感じである。
「ま、まずいっ」
落下していく先に、割と立派な街があるのが見えて、ベルザーグは焦った。
あんなのを配置した記憶はなかったが、どうやらNPC達が勝手に作っていたらしい。




