またしても、創造世界以外からの敵
たまたまタイミングよく、この時、ベルザーグは話題の「ハイランダー」にいた。
本当はもっと早起きして、帝国西部海岸へ向かうはずだったが、昨晩のショックが祟り、やや寝坊して出発がズレこんだのである。
昨晩はアレから、天井を眺めて自分の人生について考えを巡らせていたのが、まずかったらしい。
まだ完全にショック状態を脱していないが、少なくも人目のあるところで無様は見せられない。よって、ベルザーグは傍目には完全にいつもの調子を取り戻している。
ちなみに、ハイランダーに立ち寄ったのは別に気まぐれではなく、ホワイトドラゴンのエステル・グランベールと待ち合わせしていたためだ。
外見的にも肉体的にも、間違いなく十二歳の子供とはいえ、この子は魔王ヴァレリーと戦闘力においてさほど遜色がないホワイトドラゴンの女の子であり、ギルドでもちゃんと仕事をこなしている。
しかも、レベル82を誇る高レベル・ルーンマスター(魔法使い)だし、スキルやギフトも多彩なものを持っている。
全部、ベルザーグの配慮には違いないとはいえ――。
瞠目する効果を持つギフトやスキルは、ヴァレリーの「オーバースキル」などの数少ない例外を別として、そもそも肉体的な素養や才能、それに最低限のレベルがないと開花することもなければ、装備することもできない。
だからこそ、この重要な遠征で、ベルザーグはエステルも連れて行くにことにしたわけである。まあ、エステル本人もひどくベルザーグの手伝いをしたがっていたし、両者の希望が見事に一致したとも言える。
ただ、既に前途には暗雲が立ちこめていた。
転移前に一応、ベルザーグが持つギフトの一つ、クレヤボヤンスで現地の遠隔視を試みたが、なぜか探知が不能だったのだ。
目指す場所以外は問題なくクレヤボヤンスで見通せるので、偶然ではない。
「ベルザーグ様ぁ」
いつものように、ベルザーグの膝に腰を落ち着けたエステルが、彼を見上げた。
「強敵そうですかぁ?」
「まだわからないなあ、エステル」
純白の髪を撫でてやりつつ、ベルザーグは首を振る。
「でも、もうすぐ一緒に現地へ跳ぶから、その時にわかるよ」
「はい!」
素直なエステルが元気に答えたところで、ベルザーグは隣に座すアリオンを見た。
「なあ、アリオン」
いつものごとく、受付に座す彼に尋ねてみた。
「……帝国西部海岸地帯に現れた軍船について、なにか新しい情報は入っているか?」
「いいえ」
アリオンは憂うような顔で首を振った。
「あからさまに怪しいんですが、あれ以来、ぱたりとあの地方からの往来が止まっているんです。幾つか魔法による通信手段もあるはずなのに、その全てがぱったり途切れています」
ベルザーグが顔をしかめると、アリオンは慰めるように言ってくれた。
「とはいえ、他の冒険者ギルドで皇帝の依頼を受けて現地へ急行した者達が大勢いるので、そのうち、なんらかの連絡はあるとは思いますが」
「う~ん……まあでも、私のように転移のギフトでもない限り、まだまだ到着まで時間がかかるだろうな」
ベルザーグは肩をすくめ、エステルを抱いて立ち上がった。
「こうしていても埒が明かない。やはり、私がエステルを連れて現地へ赴くことにしよう」
「ご、ご苦労様です。なんでしたら助手として、誰か他の高レベル冒険者もお連れになりますか?」
「う~ん」
少し考え、懸命な瞳でこちらを伺うエステルに気付き、ベルザーグは苦笑して首を振った。
「最強種たる、ホワイトドラゴンのエステルがいてくれるさ。今は、二人でいい」
「うふふっ」
期待通りの結果になり、ゴシックドレスのエステルが輝かんばかりの笑みを浮かべる。
ベルザーグの本音を言えば、用心のためにもヴァレリーや……他の心当たりに応援を頼みたいところだが、ヴァレリーはただでさえ二日後に大戦を控えているのだ。
今呼び出すのは、酷というものだろう。
「エステルが、せいいっぱい、ベルザーグ様をお助けしますねっ」
「うん、期待しているとも、エステル」
抱きついてきたエステルの頭を撫で、ベルザーグはアリオンに頷いた。
「それでは、後のことは頼む。行ってくるぞ!」
「お気をつけて!」
「大丈夫だ。この世界に、私の敵はいないからな」
――我が創造世界以外からの侵略者なら、話は別だが。
心の中で応じたのを最後に、ベルザーグの姿はその場から転移していた。
……そして、まさにその瞬間、ギルドのスイングドアを開けて、ファニールとエレナの二人が入ってきた。
完全なるすれ違いである。
転移から抜けた瞬間、軽いショックがあり、その時点でもうベルザーグは嫌な予感がしたが。
眼前にあるものを見た時、思わず顔をしかめた。
「これは……一種のシールドか!」
つまり、転移しようとした場所が魔法的手段によってシールドで覆われていたために入り込めず、ベルザーグとエステルは、その魔法防壁のすぐ手前に転移したらしい。
目指す海岸はこのずっと先である。
「一地方をすっぽり覆うようなこんなマジックシールド、見たことありません!」
ベルザーグの腕に抱かれたエステルが、目を丸くする。
「しかも、シールドの中が全く見えないなんて」
「全くだ。やはり敵は、我が創造世界の外より来たか!」
ベルザーグは奥歯を噛みしめる。
北部で撃退したと思ったら、またしても外敵かっ。




