ほとんど覗き魔
ちょうど、そのファニールがビラ配りを終えて広場を立ち去ろうとしていたので、一郎は彼女に視点を固定して、後を追うことにした。
誰がなんといおうと、このまま放置はできない。この際、ゲームデザインの仕事は二の次! どうせ今は、たまった有給の消化中でもあるし。
無論、画像は当然の拡大表示のままである。
なにしろこの子は見目麗しい少女なので、見ていると非常に心が浮き立つ。
……端から見ると、ほとんどストーカーも同然なのだが、既に気分はベルザーグ神になりきっている一郎は、そんなことに気付いてもいなかった。
ファニールが住むのは、一郎の記憶にあった通り、ランデルグの街の一番外れだった。
つまり、街を囲む防壁をすぐ目の前に見る、繁華街から一番遠いところである。
途中、市場でリンゴを一つ買っただけで、夕方になる前にファニールは自宅に戻った。一応、亡き両親が残してくれた家だが、木造であちこちにガタが来ていて、かなりボロボロである。拡大表示すると、ファニールが一人で補修したような拙い跡もあり、一郎は一人で赤面した。
「だ、誰だよ、こんなボロ屋にこんな良い子を住まわせるクズは……ていうか、それがまた、俺なんだけどな」
罪悪感に一人で呻きつつ、一郎はふと気付いて、ファニールの所持金を確認した。
キャラクターをクリックすれば、装備品の一覧も全て出るので、楽勝で彼女の状態を確認できる。
結果として――
「むむっ」
余計に呻く羽目になった。
財産の項目にあったのは、「銀貨一枚と銅貨二枚」。それに、着替えが二通りという少なさ。特に所持金は、これが全財産のはずだ。
銀貨一枚は、この世界では銅貨十枚に当たるが、一日二食(この国では朝と夜のみ)の食事代をどう節約しても、銅貨二~三枚は必要である。
家は借家ではないので、家賃がいらないことだけが救いだろう。
しかし、それを計算に入れても、持ち金が少なすぎる! 極貧生活を地でいってるではないか……そう設定したのは一郎自身なので、誰にも怒れないが。
鍵を開けて屋内へ入ると、彼女はまず奥の自室で服を脱ぎ始めた。
「――! うえっ」
ようやく一郎の頭に「こ、これはいわゆる……覗きではないかっ!?」という当たり前の事実が染み込んできたが、しかし目を離すにはファニールの肢体はあまりに魅力的すぎて、視線はそのまま、がっちり固定。
十三歳の女の子なんて、俺の年齢から見れば、幼女同然でどうってことないだろう……と思うとしたが、いや、そんなことは全然なかった。
いざ見ているとめちゃくちゃ魅力的だし、目を奪われずにはいられない。
あわあわしているうちに、まさか一郎が(キャラ拡大表示で!)見ていることなど知らず、彼女は静かに服を脱ぎ、この世界にも普通にあるブラとパンティーだけの姿になってしまった。
特にためらうことなくそれも脱いでしまい、画面前で固まっている一郎をよそに、また部屋を出て行く。
……実はこの世界の一般庶民の家には、風呂などという上等なものはまずないが、水浴びをする場所は、それぞれ各家で工夫している。
いちいち街中の銭湯へ行くと値が張ってしょうがないので、桶に溜めた水で水浴びして身体を拭き、それでよしとするのである。
女の子はともかく、野郎は当然ながらそれすらしないことが多く、ゲーム世界でなければ、さぞかし臭ったことだろう。
どうやらファニールの家では、入り口から一番遠い裏手に、ごくごく小さな水浴びの場が設けてあるようで、水飲み場もすぐ隣にあった。
ファニールはおもむろに桶に水を溜め、そのままざぶりと浴びる。
確か現在のゲーム内季節は三月であり、まだ春と呼ぶには早過ぎるほどである。当然、凍えるほど冷たいはずだが、ファニールは目に見えて震えながらも、水浴びをなかなかやめなかった。
何度も水浴びを繰り返した後、今度はなぜかその場に跪き、両手を合わせ、目を閉じた。
「……?」
血走った目つきで、小ぶりの乳房や芸術的な曲線を見せる、小さなお尻などを見ていた覗き屋……ではなく一郎は、ようやく疑問を覚えて、彼女が頭を垂れる方を見た。
そこの壁を拡大すると、なにか貼ってあるようなので、さらにその一点を拡大してみる。
すると……見よ!
いかにも「女の子が考えた想像上の神様」的な絵が、壁に貼られていたではないか。
おそらく、あれが彼女にとってのベルザーグ神のご神体の代わりなのだろう。となると、最初にしていた水浴びは、この子にとっての禊だったかもしれない。
ちなみにご神体の絵については、どう贔屓目に見ても、一郎本人より300パーセント増しで男前だった。
この子は絵心もばっちりあるらしく、ちょっと少女漫画に出てきそうなイケメンである。
両手を合わせ、全裸でぶつぶつ拝む声を聞こうと、一郎はスピーカーのボリュームを上げてみる。
『……に感謝致します。今日も日々の糧をお与えくださったことにも、心からの感謝を捧げます。我が創造主さま、どうか非力なわたしをお導きください』
最後にファニールは、土下座と変わらないほど深々と身体を折り、ほとんど額が土間に着く寸前まで頭を垂れていた。
「あああああっ」
居たたまれなくなり、頭を抱えてしまった一郎、一旦ファニールの観察をやめ、屋外に画面の視点を移した。




