運命の選択をする
なぜ反応がない!?
もう一度、押す……反応なし。しばらく待ち、再び押す……押す押す押すっ。
「おいっ、ログアウトはっ」
ついに立ち上がって叫んでしまった。
このままじゃ、一郎に――相馬一郎に戻れないではないかっ。
途端に、待ってましたとばかりに赤字警告が来たっ。
■創造主ベルザーグの分身、相馬一郎に警告します■
やたらフォントのデカい字で、いつもより鮮烈に赤い文字だった。
「な、なんだなんだっ。俺にか! ていうか、また赤字かっ」
ベルザーグ……いや、一郎がうろたえる間にも、文章は続く。
『貴方に、創造主としての第一の試練です。今から300秒の猶予を与えますので、本当にこの世界からログアウトするか、決断してください。もしログアウトしてリアルワールド復帰を選択した場合、貴方はこの世界から決別することになります。以後、創造主の能力も資格も失うことになるでしょう』
「そんな馬鹿なっ。俺の自室にあるPCが、勝手に改変されるっていうことか!?」
別に一郎の質問に答えたわけではないだろうが、赤いデジタル数字で300のカウントダウン開始と、それに補足が同時に出た。
■補足■
○ログアウトしてリアルワールド復帰を選択
↓
相馬一郎はただのゲームデザイナーに戻る。
ただし、二度と創造したキャラとは心を通い合わせられない。
○ログアウトせず、ベルザーグとしてこの世界に留まる。
↓
相馬一郎は、以後もこの世界の創造主として、キャラと世界の運命に関わる。
ただし、二度とリアルワールドへは戻れない。
――以上。
「い、以上って……」
一郎は、呆然と赤い文字の補足を眺めた。
この警告は本当だろうか!? いくらなんでも、有り得ないし、デタラメじゃないのかっ。
しかし……これまで赤字警告が出た時は、冗談でもおふざけでもなかった。
では、これも文字が説明する通りの事態になる可能性があるっ。
……そんなことを考えて棒立ちするうちに、画面中央のカウントダウンは、既に200を切っていた。
200秒……いや、あとたった三分あまりで、自分の人生を決めろっていうのかっ。
一郎はわなわなと震えて、どんどん減っていく数字を見つめる。
もちろん、単なる脅しである可能性もある。しかし、今までの経緯からして、これも本気の警告だと見た方がよい。
では、本気だとして、俺はどうする!?
大人としては――いや、仕事のある社会人としては、戻るべきだろう。
まだゲーム開発だって途中なのだからっ。
しかし……では戻って、もはや味も素っ気もない普通のAIキャラに戻ったキャラ達を相手に、これまで通りやっていくのか? あれほど感情豊かな我が子達と出会った後に!
「それは……残酷すぎるだろう」
一郎の唇から、押し殺したような声が漏れた。
それに、戻ったところで、俺に何があるのか? 両親は既にない。弟が地方にいるが、兄弟仲は最悪だ。下手すると、今後一生、再会しない気さえするほどだ。
では、会社ではどうか? 私生活では? いない……誰もいない……少なくとも、この世界の我が子達を捨ててまで再び会いたいと思うような者は、本当に誰一人いない。
会社の業務的には多少困るだろうが、どうせ代わりデザイナーなど、そう苦労せずに見つかるはずだ。
「生まれてきた以上、誰かの役に立ちたいよなあ」
一郎はついに100を切ったカウントダウンを見て、独白する。
昔、それこそ小学生の頃に、そんなことを作文に書いたような気がする。今になってなぜ思い出したのか、謎だが。
俺のやっていることは、所詮は自己満足とキャラへの妄執的なものに過ぎないかもしれない。しかし、それだけじゃなくてこの世界をなんとかしたいという気持はあるし、もちろん、あの子達を助けたいという気持も強い。
残れば……少なくともリアルワールドよりは、誰かの役に立てるんじゃないか。
すとんと座り込み、一郎は凍り付いたように画面を眺める。
カウントダウンは既に残り十秒を切っていたが、もはや一郎の心は定まった。
「いいさ、俺は残る、残ってやるっ」
口に出した瞬間、カウントダウンはゼロになり、そしてステータス画面からログアウトボタンが消えた。
(第二章終わり)




