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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第二章 創造主(一郎)の覚悟
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抱いて頂きました

「我が魔族の旧領回復のためにっ」


 感謝のためもあるが、自分があまりにも不甲斐ないために、創造主が痺れを切らしたのかと、ヴァレリーは一瞬、拭いがたい恐怖を感じた。

 叱責が怖いのではなく――いや、正確にはそれも怖いが、なにより崇拝する創造主ベルザーグに見捨てられるのがなにより怖いのだ。


 万一、「おまえは魔王としてはあまりにも能力不足なので、今後、魔王の地位には他の者を当てる」などと言われでもしたら、ヴァレリーは絶望のあまり自死を選んだはずだ。




「……どうかしたのか?」


「い、いえっ。なんでも……なんでもありませんっ」

「しかし、明らかにショックを受けているじゃないか!」


 一方、あまりにも彼女の反応が大げさだったので、ベルザーグは思わず眉をひそめたが、ヴァレリーの魔王にあるまじき怯えた表情を見て、ようやく気付いた。

 そんなことは絶対に有り得ないのだが、どうもこの子は、自分があまりに不甲斐ないせいで、ベルザーグが辛抱できずに自ら動いたと勘違いしたのではないか?


「ヴァレリー、はっきりと説明しておくが、私が今のヴィルゲリア帝国を看過できなくなったのは、おまえがいつまでも攻めないからじゃないぞ。だいたい、帝都の城には『インモータルナイト』が手ぐすね引いて待ち構えているし、絶対防御の『パーフェクトウォール』も備えている。誰であろうと、簡単に攻められるものか」


 しっかりと保証してやってから、おもむろに打ち明けた。


「実は、当代の皇帝であるデニケンがあまりにも無責任でな。国境の西部で外敵の蠢動があったというのに、斥候役を冒険者ギルドに任せようとするていたらくだ。他にも女遊びにうつつを抜かしているようだし、もはや創造主の責任において、あの者を今の地位に据えてはおけん」


 わざと仏頂面を作り、ベルザーグは断固として言う。

 一転して、すぐに声を和らげた。


「そこで、この際は大きくなりすぎ、貴族達の腐敗が広がる帝国を二つに分け、片方の西部地方をおまえに任せることにした」

「――この私に、ですか!」


 さっきまで泣いていたカラスが~という言葉があるが、ヴァレリーの表情の変化はモロにそれだった。

 まさに、奈落の底から天上にまで気分が浮上したように見える。


「やはり、領土が回復すると喜ばしいかな?」

「それは無論のことですが」


 ヴァレリーは胸に右手を当て、彼女らしからぬきらきらした瞳でベルザーグを見つめた。


「最大の喜びは、創造主様がこの私を信頼し、これほどの大任をお与えくださることです」


 弾んだ声音で言ってのけるヴァレリーがあまりに可愛く思え、ベルザーグは衝動的に彼女を引き寄せて胸に抱き締めてしまった。


「……あっ」


 ヴァレリーが息を詰めたような声を上げた。


(ヤバい! セクハラは避けるつもりでいたのにっ)


 抱き締めた瞬間にどっと後悔したが、しかし正直に言えばさすがのベルザーグも、この一瞬のみ、めちゃくちゃ幸せだった。

 浄化の直後ということもあるだろうが、ヴァレリーの肌から甘い香りが漂うわ、豪勢な金髪からも得も言われぬ匂いがするわ、胸に柔らかいものがまともに当たるわで、危うく「結婚してくれっ」と言いそうになったほどである。


 もちろん、すぐに「そ、創造主が自分のキャラに手を出してどうするよっ」と思い、さっと身を離したが、もう少し抱き締めていると危なかったかもしれない。


 岩陰なのを良いことに、押し倒していたかも。


 密かに深呼吸してヴァレリーを見たが、幸い、彼女はぼおっとしていて、今何が起こったのか、あまり理解していないように見える。

 なぜか、とっさに右手を伸ばしてベルザーグを引き留めようとしていたほどで、今のを褒め言葉代わりの抱擁ほうようだと思ってくれたかもしれない。


 というか、そうであってほしいと思う。



「いや、すまなかった! さっきの発言におまえの信心深さが表れている気がして、つい感謝のつもりでな……」



「いえ……ワタクシならば……いつでも喜んでお応えします……」


 まだ正気に戻ってないのか、ヴァレリーの返事はどうも夢見心地だった。



「おほん。とにかくだ――」


 ベルザーグはこれ以上脱線しないうちに、急いで連絡事項というか、頼みたいことを事務的に告げた。

 てきばきと話し終え、最後に尋ねる。


「では、帝都の城に襲撃をかけるのは、三日後でどうかな?」

「……はい」


 ぼーっとした顔でヴァレリーがコクコク頷く。

 本当にわかってるのかこいつ、という感じである。

 今一つ不安は残るが、ベルザーグも無能な皇帝(でも設定したのは自分)のお陰で、まだまだ忙しい。


 そこで最後に「他に与えるものもある。後でステータス画面を見るといいぞ」と言い残し、別れの挨拶と共に消えた。






「……えっ」


 残されたヴァレリーは、今更のように焦りまくって周囲を見たが、もう遅い。

 ちなみに、抱かれた後のことは、一切覚えてなかったりする。なにかこう、夢の中を漂っているような幸せな気分のまま、いきなり正気に返った。



「べ、ベルザーグ様っ。しまった! 大事なことを全部聞き逃しているわっっ。あああああっ、私は馬鹿だっ。死にたい!」



 頭を抱えて叫んだが――幸い、後から副官格のバーンズに全部教えてもらうことができた。

 彼は戻ってきた時、岩の反対側に立っていて、途中から声だけは聞こえていたらしい。


 魔王と創造主の会話を盗み聞きとは、厳罰ものだが――気が短い彼女にしては珍しく、赤面し、涙目で一度ぶん殴っただけで、許してやった。


 とにかくバーンズのお陰で助かったのは事実だし、恥ずかしい会話を盗み聞きされるのであれば、こいつが一番マシなのは確かなので。


 

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