皇帝の首をすげ替える決断
ベルザーグ(一郎)はアリオンにファニールのことを頼み、さらに幾つか注意事項も語った。
一応、サポート役として彼女に一人つけるつもりだが、ファニールに管理してもらうつもりの教会は、このギルドの隣にぶっ建てるつもりなので、アリオンにもちょいちょい様子を見てもらわないといけない。
受付業務はそっちのけで、ベルザーグは出してもらった椅子に座し、顔をつきあわせてアリオンにファニールのことをくれぐれも頼んでおいた。
「よし、今のところはこれくらいか。彼女が帝都に着くのは明日になるだろうから、よろしく頼む」
「承知しました!」
弾んだ声でアリオンが頷く。
「ようやくベルザーグ様の教会が出来るのは、僕も嬉しいですよっ」
「ははは……」
柄にもなく照れ笑いなどした後、ベルザーグはふと思い出して訊いた。
「そう言えば、一年ほど留守にしていたが、私への依頼は来ているかな」
「もちろん、来ていますとも」
アリオンは苦笑気味に頷く。
「ベルザーグ様――いえ、ベルザーグさんは、当ギルドの最高ランク冒険者ですからね。この一年で依頼は五百件近く来てます」
「それはまた、有り難いやら迷惑やらだな……できればギルドに貢献したいが、私も忙しい」
ついうっかり、ゲーム内の時間を超速モードにして爆睡したことはおくびにも出さず、ベルザーグは重々しく告げる。
幸い、アリオンは「よくわかります」とヤケに強く頷いてくれた。
「とはいえ、全てを無視するのもな……おまえから見て、引き受けるに足るような依頼はあったかな? 重要なことであれば、後日とりかかってもいいが?」
「重要というか……つい昨日、皇帝からの使者が来て、最高レベルの冒険者に仕事を頼みたいと言ってましたが」
「……皇帝?」
さすがにベルザーグが眉をひそめる。
「皇帝なら、自分の臣下が幾らでもいるだろう。どうして冒険者ギルドに依頼などしてくる?」
「おそらく、臣下が信じられないのでしょうね……疑心暗鬼的な意味で」
「ふん?」
皇帝として設定したキャラを思い出し、ベルザーグはたちまち顔をしかめた。
デニケン・ド・ヴィルゲリアという青年で、正直、無能を絵に描いたような奴である。なんでそんなキャラを設定するのかというと、このヴィオランディス・サーガは自由度の高さを売りにするつもりなので、プレイヤーが一介の市民としてスタートしても、プレイのやり方次第で、皇帝にもなれるように工夫したのである。
当然、下克上を前提にしていて、無能な皇帝がいるのは、そのためである。
有能な賢帝などが帝位にいたら、どんなに努力しても下克上など無理なので。
……そこまで考えて、ベルザーグは嫌な予感がむらむら湧き起こった。
「ちなみに、皇帝の依頼とはなんだ?」
「一応内密にとか言ってましたが、あれは有力ギルド全部に依頼してますね」
アリオンは呆れたように言った。
「内容は、帝国の西部海岸地帯に他国の軍船が押し寄せ、上陸を始めているので、その意図を探ってほしいと――」
「あの馬鹿っ」
思わず立ち上がったベルザーグに、ギルド内の冒険者達の視線がさっと集まった。
慌てて表情を改め、何事もなかったようにまた座る。
「軍船が海岸に着いたなら、攻めてきたに決まってるだろうっ。現に私は、大陸北部から侵略してきた似たような連中を、魔族と共に撃退したばかりだぞっ」
「うわぁ」
アリオンが尊敬の眼差しでベルザーグを見つめた。
「やはり、影ながら世界を救ってくださっていたのですね」
「無論のことだ!」
ベルザーグは即答し、片方の掌に、拳を叩きつけた。
「それより、れっきとした政治の責任者である皇帝が、侵略されている真っ最中に、斥候役を冒険者ギルドに依頼しようとは、どういう了見だっ。これこそ、国を挙げて対処すべき案件だろうにっ」
とはいえ、ベルザーグにはもうその原因もわかっている。
無論、皇帝たるあのデニケンが、めんどくさがって動かなかっただけの話だ。さすがは倒される前提で設定されたキャラだけある。
その暗愚皇帝もまた、自分が創造し、設定したのだと思うと、自分とキャラの双方に腹が立って仕方ない。
しばらく額に手を当てて考え、一郎は決断した。
「決めたぞ、アリオン。あの馬鹿には退場してもらい、新たな皇帝を立てるっ」
これこそ、創造主の成すべき責任というものだろう。
本音を言えば、もはや当初の予定は忘れて、今は有能なキャラに国を治めてもらわないと、こっちの負担が増えるばかりで困るのだっ。




