敵の情報
『案ずるな、ヴァレリー。私は創造主、ベルザーグだ! 特別に降臨して、外敵を屠るために力を貸しに来たぞっ』
恐るべき魔法攻撃が炸裂した時、ヴァレリーはすぐにそちらを見た術者を確認したが――。
おそらくあちらも、ヴァレリーと目が合った瞬間、わざわざ声を届けてきた。
見た目はまだまだ若者だが、黒い瞳には魔王ヴァレリーをも唸らせるほどの力の波動を感じた。それでも、とっさにステータスディテクションを使ったのは、彼女なりの用心深さである。自分の創造主への信心を知り、何者かが罠にかけようとしている可能性もある。
魔族を率いる立場の者は、決して用心を忘れてはならない。
しかし、一瞬阻まれたかに思えた魔法探知が成功したあと、ヴァレリーはステータスの一端を見て、驚喜した。
相手の方が遥かに格上なので、ステータスの全てを覗くことは不可能だったが、彼のレベルが100を遙かに超えていることだけはわかった。
そこから先は探知不能のためマスクされて読めないが、「レベル100↑」とあって、赤字の↑が横につくということは、それ以上のレベルだということなのだ。
当然、そのような破格のレベルが人間に有り得るはずもない。
魔王たるヴァレリー自身ですらレベル91であり、既に才能限界値が間近な状態なのだから。
――今日はなんという日か! ついに私の前に、創造主が姿を現してくださったっ。
深々と創造主の方へ一礼した後、ヴァレリーは喜色満面で叫んだ。
「者ども、見よっ。我らが創造主がこの地に降臨され、ご助力くださった。これ以上、大神ベルザーグの御手を煩わせるなあっ」
『うぉおおおおおおっ』
たちまち彼女の周囲に、返事とも歓声ともつかぬ声が充ち満ちた。
「おぉ、どうやら信じてくれたらしい。結構、結構」
無駄に鷹揚に構え、ベルザーグは笑顔で頷いた。
見たところ、今のレベル90魔法の効果は絶大だったらしく、敵軍は既に総崩れの有様だし、逆に魔族軍はベルザーグの登場に士気が沸き立っている。
これ以上の助力は必要ないと見定め、ベルザーグは高見の見物を決め込むことにした。
おそらく、さほど掛からず敵軍を追い返せるはずだ。
「……となると、俺はむしろ、敵軍の情報を探るか」
ベルザーグは再び空に舞い上がり、逃げ散る部隊のうち、指揮官クラスの一人を見定める。
馬上にあるそいつの頭上に音もなく急降下し、さっと腕を掴んだ。
「うおっ」
敵は素っ頓狂な声を上げたが、ベルザーグは一切構わず、そいつごと上空へ舞い戻る。
「は、離せえっ」
「ええい、やかましいぞ、侵略者があっ」
むかついたので、まだかなり高度があったのだが、途中で手を離してやった。
「望み通り、離してやる!」
「――っ!」
金属製のヘルムのみは外していたが、後はプレートアーマーを纏っていたそいつは、文字通り石つぶてのごとく落下し、がっちゃんと叩きつけられた。
まあ死なない程度の高度にはしたので、一応、まだ動いてはいる。
舞い降りた一郎は、すかさず精神支配系のマインドコントロールをかけてやった。
拷問などの疲れるやり方より、こっちの方が早い。
「おまえは、どこから来た!」
まず、一番肝心なことを尋ねると、男はぺたんと座り込んだまま、虚ろな視線で述べた。
「クレアデス共和国からです……」
「阿呆っ」
思わず拳で、ごちんと半白の頭を叩く。
「国名じゃなくて、このヴィオランディス大陸から見て、どこら辺から来たのかってことを知りたいんだよっ。別の大陸か?」
「別の大陸です、はい。この大陸に来るまでに……三ヶ月以上、海を渡る必要がありました」
「三ヶ月ぅ?」
そこまで遠いとなると、明らかにヴィオランディス・サーガのワールドマップより外ということになる。
なにしろ、今自分達がいるヴィオランディス大陸は、ワールドマップの北端にあるからだ。
他にもある大陸のほとんどは、マップの南側に集中していたはず。
「最初から、目的は他国への侵攻か?」
「……はい。我々の大陸はもはや全土が統一されているので……さらなる新天地を求めて、評議会が遠征を決めました」
「ここにヴィオランディス大陸があると、おまえ達は知ってたのか?」
「古文書には、そうありました……ただ、確信のある者まではいませんでしたが」
そんなアテにならない航海にそれほどの兵力を割けるとは、どれだけ余裕のある国家なのか。
「他にもまだ来るのか?」
「いえ……我らの帰還を待ってからだと……評議会議長はそう言われました」
「ふむ」
ひとまずほっとしたところで、ヴァレリーが空を渡ってこちらへすっ飛んできた。
ベルザーグはひとまず質問をやめ、表情を調節した。
なにしろ、今の自分は創造主なのだ。へらへらしている場合ではない。




