まとめて吹き飛ばす、レベル90魔法
「うおっ」
ダイブ成功の直後、予想外の感触に、一郎は思わず声を上げてしまう。
いつものテストプレイと何が違うかというと、まず風が吹き付けてくるのを感じる!
あと、土の湿ったような香りがするわ、微かに血の臭いまでするわ……こんな機能、どう考えても前はゲームに備わってなかったはずだ。
「これはいよいよ、俺の知らない何かが起こっている感じだな……しかし、それより今はヴァレリーの援助だ」
鎖に繋がれた、謎の化け物達の背後に隠れる魔法使い共を倒そうと奮闘中のヴァレリーに向かい、一郎――いや、ベルザーグは意識を集中する。
とりあえず、自分の立っている場所は両軍から少し離れたところなので、いきなり奇襲を受ける心配はあるまい。
まあ、ベルザーグはLv70以下の攻撃を全て無効にする「レベルシールド」のギフト持ちなので、そもそも攻撃されたってまず平気なのだが。
「よし、壁になってる化け物達ごと、あの魔法使い(ソーサーラー)の集団を殲滅してやるっ。効果範囲指定っ!」
上空に舞い上がったベルザーグが声を上げると、たちまち眼前に彼自身にしか見えない魔法効果指定のスクリーンが表示された。
そのスクリーン内に見える、毛むくじゃらの化け物の群れと、背後の魔法使い集団をまとめて範囲指定する。やり方は、スマホの画面を操作する時のように、範囲を示す面積を指で操作すればよい。
指定が終わり、そいつらのいる場所が赤くなった刹那、ベルザーグは遠慮なく魔法攻撃を放った。
「全員、消えてしまえ! ライトニングトルネードっ」
言下に、明けかけた空を真昼のごとく染め上げ、言語道断なエネルギー量を誇る雷光の束が、指定された範囲を襲う。
まさに、青白き光の洪水も同然であり、人の身長ほどもあるぶっとい雷光が幾束も幾束も重なり合い、狙った範囲を縦横無尽に蹂躙していく。
青白い光の乱舞も目が開けられないほどまばゆいが、バリバリバリッという音も凄まじい。
当然ながら、そこにいた連中は獣人も魔法使いも含めて全員が直撃状態であり、避けられた幸運な者など、誰一人としていなかった。
おそらく、自分に何が起こったのかすら理解し得ないまま、彼らはその場で即死した。
実のところ、魔力量と解放されたエネルギー量が凄まじすぎた故に、炭化した死体すら、ろくに残らなかったほどだ。
ほとんどは黒い塵となって、その場で吹き飛んでしまった。
「レベル90魔法(そのレベル以上しか使えない魔法)に留めたが、それでも相変わらず効果抜群だなっ」
一気に三桁に近い敵を屠ったベルザーグは、会心の笑みで呟いたが、同時に、敵味方双方が驚愕の声を上げてこちらを見ているのに気付き、特にヴァレリーに向かって片手を上げてやった。
最初は親しげに手を振ろうかと思ったが、それでは創造主としては、あまりにアレだろう。
そもそも、ヴァレリーがプレイヤーとしてこの世界に生きるベルザーグを見るのは、初めてのはずである。
その証拠に、冷静沈着なヴァレリーも、さすがに真紅の瞳を見開き、こちらを凝視している。やや警戒の表情が浮かんでいるのに気付き、ベルザーグはわざわざマジックボイスで声を届けてやった。
『案ずるな、ヴァレリー。私は創造主、ベルザーグだ! 特別に降臨して、外敵を屠るために力を貸しに来たぞっ』
ベルザーグの外見は黒髪に黒瞳だが、顔の造形は全然日本人っぽくない。
二十歳前後の肉体年齢の割に、神秘的と評するに足りる、深沈とした物腰に見える――はずだ。というか、一郎の肉体そのまんまで登場するより、「中身は創造主」という部分の説得力は、段違いのはずである。
しかし、ヴァレリーはさすがに魔王の地位にあるためか用心深く、小さい声で何か呟いていた。おそらくステータスディテクションを使って、ベルザーグのステータスを覗こうとしたのだろう。
そのままではおそらく読めないはずなので、ベルザーグは急いで自分の魔法防御を全て一時的に無効にしてやった。
(やれやれ、神様の証明もなかなか苦労する)




