創造主が出撃する
謎の軍勢と戦端が開かれたのを見守る一郎は気が気ではなかったが、地上と空の両面から展開した魔族軍が、たちまち敵軍のただ中に突き入り、引き裂き、蹂躙していくのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。
全盛期よりかなり衰えた(という設定)とはいえ、さすがは魔族の精鋭!
特に、魔王ヴァレリーの苛烈な指揮ぶりは頼もしく、見ていて非常に安心感があった。
当然その分、謎のクレアデス共和国軍のプレートアーマー騎士達はざくざく死んでいるわけだが、そもそも彼らには一郎の管理が及ばない以上、知ったことではないというのが本音である。
(むしろ、全員倒してしまって、身ぐるみ剥いだって構わないぞ! いや、ぜひそうしてくれ、ヴァレリー。こいつら、なんかむかつく!)
神の視点で画面を見ている一郎は、最初からヴァレリーのみを応援していた。
そのうち、彼女自身も大剣を手に敵部隊に斬り込んでいき、敵軍は益々動揺した。
いかに、見た目がゴージャスな美人に見えようと、ヴァレリーは弱肉強食の魔族世界で見事に王となった子なのだ。
魔王の名は伊達ではないし、実際、現在の彼女のレベルは90くらいあったはず。
このヴィオランディス・サーガというオンラインゲームの中では、今のところ神族と一郎のアバターキャラを除き、レベル100をカンスト(カウンターストップ)と定めているので、ほぼ全種族最強に近いかもしれない。
対抗できるとすれば、後は龍族くらいだろう。
しかし……敵もなかなか、そう簡単には崩れなかった。
今にも敗走しそうなほど動揺しているのは事実だし、既に戦死者も大勢出ている。
しかし、指揮官らしき男が槍を掲げて、「ソーサラー部隊を投入するっ」と叫んだ途端、少し流れが変わった。
命令に従って参戦したローブ姿の男女は、文字通りの魔法使いの集団らしく、鎖に繋がれたごつい化け物達を壁としてその後ろで勢揃いし、片端から魔族軍に魔法攻撃を仕掛けてきた。
見ていると、炎系や雷光系など、特に目新しいものではない。
このヴィオランディス世界とほぼ同じ攻撃魔法を使うようだが、しかし、敵陣深く斬り込んでいる魔族軍には、かなり効果的だった。
もちろん、魔族達も当然のように魔法を使えるし、今そうして態勢を建て直しつつあるが、この瞬間に限って言えば、魔法使い達の奇襲は成功している。
このままだと、数百単位くらいの死者は出るかもしれない。
戦況を見たヴァレリーは、自ら魔法使い共を殲滅すべく前線まで出ようとしていたが……もしかして敵にまだ奥の手があったなら、いかに彼女とて、多少のダメージくらいは負うかもしれない。
「大陸全土から恐れられる魔王とはいえ、俺にすりゃ可愛い我が娘も同然だ。……ここは一つ、俺が直接、加勢するか!」
一郎は呟き、急いで立ち上がった。
直接プレイヤーとして戦闘に介入するなら、さすがに敵にも手出し可能となるだろう。一郎のアバターキャラであるベルザーグは、それこそ創造主にふさわしいステータスを持っていることだし。
それに、どうせ後で、一度はゲーム内にダイブし、実地で様子を探ろうと思っていたところである。
タイミング的にも、今がチャンスかもしれない。
今後、謎の敵侵攻がこれで終わりとは限らないだろうし、願わくばヴァレリー率いる魔族軍には、あまり消耗して欲しくない。
ここは、一郎のキャラであるベルザーグ自らが出陣して介入し、とっとと戦を終わらるのが正解だろう。
幾人か捕虜をとって尋問する必要もある。
決断すると、一郎は素早かった。
PCデスクをぶっ叩いて立ち上がると、PCの電源はそのままに、すぐさま奥の部屋に入る。そこに設置された、テストプレイ用のダイブコアシステムに横になる。
これは一郎専用だが、このヴィオランディス・サーガが正式に始まる頃には、もっと簡易なシステムで、しかも安価でプレイヤー達に提供される――予定である。
しかし、今はゲームの制作そっちのけで、一郎はテストプレイ用のダイブコアで神経接続を開始した。
システムのカプセルが閉じた途端、一郎の視界は真っ暗になり、そして暗闇の中で小さな光が生じ、メッセージが出る。
『VRMMORPG――ヴィオランディス・サーガのテストプレイを開始します。相馬一郎はプレイヤーキャラとして、ベルザーグ・ヴィオランディスを選択……それでは、フルダイブのためのパスワードを音声入力でどうぞ』
「――創造主が出撃する!」
打てば響くように一郎が返す。
最近では、この恥ずかしいパスワードを堂々と叫び、赤面せずに済むようになってきた。
音声入力は無事にクリアされ……次の瞬間、一郎の視界は劇的な変化を遂げた。




