代理競争
『赤色師』には位階という考え方がある。今でこそクヴァルティスには3人しか居ないが、昔はもっと『赤色師』は数が多かった。
『赤色師』は『赤色』を管理するのが仕事になる訳だが、人数が多いとかえって管理が複雑化するという問題が発生する。
そこで位階制度を設けランク付けを行い、上位の3人に管理を任せることになった。これが現在の赤色師が3人にである理由。
ちなみに、位階における名称は、古代のカムネリア国の制度を模して、上から『神前に跪く者』、『精神を支配する者』、『物質を支配する者』というかなり時代がかったものになっている。そして、3年に一度の頻度で競技が行われ、上位者を決めることになっている。ただし、『赤色師』自らが競い合う訳ではない。代理者を立てる。その代理者も金と銀の争奪戦のように戦うのではなく、平和的に課題に取り組み、優秀者を勝者とする決まりになっている。
「その慣例が今でも受け継がれていて、今回の『赤色探し』はその一環と言うわけだ」
「その慣例の代理人にあたし達が選ばれたってこと? 何でそんなのに付き合わないといけないの?」
「そう言うが、れっきとりした課題だぞ? お前たちにしてみれば、単位も出る。うまくやれば『自分の赤』も手に入る。悪い話じゃないだろう?」
「それはそうかも知れないですけど、利用されてたと思うとちょっとイヤかな」
ディトーは、ここで、ふふっと笑みを浮かべる。それが何を意味するのか、ユーナは察しかねた。「結局、『自分の赤』も見つからなかった訳ですし?」
「そう、それだよ。それだと困るんだよ。説明してやったんだから、理由は判るだろ」
いきなり、ディトーは慌て出した。
「理由は判ります。が。納得はしません」
「今回の位階変えはひよっこのエイディオルと一騎打ちなんだ。ジルはあと3年で引退が決まっているから、今回は辞退した。だから『神前に跪く者』になれるチャンスなんだよ。それともお前は赤色師になりたての青二才に負けろって言うのか?」
「って言われましても」
『赤色探し』が代理競争なのだとしたら、それはつまり、リッツジェルド兄妹との競争ということになる。
そう言えばレオンハルトは、このことを知っていたのだろうか。
知っていた、と考えるべきだとユーナは思った。『幽体捕獲』の時も裏の事情を知っていたくらいだから、今回も。と言うのは十分にあり得る。
だから、妹のルツィアが代理人に選ばれたのを良いことに、手伝うという建前で首を突っ込んで来たのではないか。
競争相手としては、この兄妹はかなり手強い。
それを置いておくとして、ユーナとしては、他人の争いに巻き込まれるのは遠慮したい。
はっきり言ってめんどくさい。
しかし、今回はすでに首を突っ込んだ状況にある。それに、ディトーには日頃から良くしてもらっている。それを無碍にするのも気が引けた。
「しょうがない。それで、新しい赤色を探せば良いんですよね?」
「やってくれるのか?」
「そう言ってるつもりですけど?」
「ありがたい」
ディトーは、にやりとした。感謝の念が顔に現れたというより、事が上手く運んで、してやったり的な表情に見える。
それを見たユーナは、何かの策略に引っかかったらしいと悟り、しまった、と思った。
だが、それが何なのか判らない。ディトーの裏の事情は引き出せるだけ引き出したつもりだ。それに、もし裏の裏があるのだとしても、続けると宣言してしまった以上、課題には取り組まなければならない。
ユーナは観念したが、次の言葉を付け加えるのは忘れなかった。
「でも、必ずしも上手くいくとは限りませんからね。その時は位階のことは諦めてください」
「判った。その時はすっぱりと諦める」
いやに物分かりが良い。
そう思ってディトーを見つめると、
「まあ、あまり疑心を持たずに取り組んでみてくれ」
と、本音なのか建前なのか、判断が難しい言葉が返ってきた。




