表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
赤色魔術
97/664

ルツィアと

 翌々日の夕方、ユーナとクリスは、ランティエを連れて『ユーベル・シュバルツ』という喫茶店に向かった。この店は、珈琲の種類が豊富なことで知られているが、ケーキも良い物が揃っている。

 今日も甘味を食べると3日連続になる。

 珈琲だけにしようと、ユーナは心に誓った。


 ルツィアはテラス席に1人で座っていた。亜麻色の髪を後ろでまとめ上げたヘアスタイルだったので、すぐに彼女とは気づけず、ルツィアのほうから声をかけられた。

 ユーナは彼女の周囲を注意深く見回す。レオンハルトが居ないか確認したのだ。幸い、その姿は無かった。

 ルツィアが向かうテーブルの上には紙が数枚広げられていて、そこには手書きの文字がびっしりと書き込まれていた。

 ユーナはそれが何なのか気にはなったが、あえて触れないことにした。

「こんにちは。待たせちゃいました?」

「いいえ」と答えながら、ルツィアは紙をまとめて鞄に入れる。


「こっち座らせてもらいますね」

 ユーナはルツィアに向かい合う位置に座り、クリスはその隣に座った。ランティエは立っていることを望んだが、ルツィアの隣に座ってもらうことにした。

「もう何か頼んですか?」

 ルツィアが「いいえ、まだです」と答えたので、ユーナはウェイトレスを呼ぶ。

 ユーナとルツィアとランティエは珈琲だけ。クリスはノッケルにするかザッハトルテにするかで迷った上で、ザッハトルテにした。出会って間もない人物を前にノッケルを平らげるのは、さすがに恥ずかしかったようだ。

「先に紹介するね、こちらは……」

「ランティエよ。ユナマリア・アルア・リーズ様の警護を仰せつかっている呪衛士」

 ランティエは、言いながらルツィアを無礼なくらいまじまじと見つめた。

「あの、何か?」

 ルツィアは気圧されてしまう。

「あなた、持力は『(ヴァッサー)』ね?」

「そうですけど……それが何か?」

 びくびくしながらルツィアは答えた。

 ランティエはしばらくルツィアを見つめた後、「なんでもないわ」と視線を逸らし、その後は沈黙を守った。

 ユーナはランティエがなぜルツィアに対してこんな言動をしたのか、気になるのと同時に理解できなかった。いつもなら礼を重んじた節度ある対応をしているのに。しかし、訊いても答えてもらえないことは判っていた。


 ウェイトレスが、珈琲3つとザッハトルテをテーブルに置いていった。

 珈琲をひとくち。


 ユーナは、ですます調の会話が段々ともどかしかった。彼女がどうしても『ルー』と重なって見えてしまって、丁寧な言葉遣いに違和感を感じてしまう。

「ルツィアさん、良ければ、あたしのことユーナって呼んでくれない? あたしもあなたのことルツィアって呼ぶから」

 突然の申し出に、ルツィアは目を丸くして驚いた。

 ちょっと強引で早急過ぎたのかもしれない。失敗したかな? とユーナが思っていると、ルツィアは嬉しそうに、

「それは是非。よろしくお願いします」

 と答えた。

 ユーナはほっとして胸をなで下ろす。

「では、わたしのこともクリスと呼んで下さい」とクリス。

 ルツィアはこれも承諾した。

 ユーナはカップを手にし、口に運びながらルツィアのことを見つめた。

 それにしても、どうやったらあの兄の妹が、こんな風に育つんだろうか。

 兄の方は、他人のことなど顧みない、傲慢で無礼で不遜な輩なのだから、同じような性格になってもおかしくはないはずだ(例えば、悪役令嬢みたいな)。

 羽をあしらった扇子で口元を隠しながら、「わたくしと交友を結びたいなら、相応の礼を持つべきですわよ?」とかなんとか言いそうな。

 そういう小娘は社交界で良く目にする。もっとも、リーズ家は貴族の中でも家格がかなり上なので、そういう口をユーナに叩く奴は居ないのだが。

 ルツィアはそう言う小娘どもとも違う。

「ルツィアって、レオンハルト……お兄さんと全然性格違うよね」

 もちろん良い意味で、だ。しかしユーナはそこまでは口に出さなかった。

「わたしは、母が亡くなるまで、父のことも兄のことも知らずに育ったから。だから、貴族としての振る舞いはよく知らないの。兄と違うとすれば、それが理由だと思う」

 ルツィアはユーナに合わせて砕けた口調になった。

「それじゃあ、あたしと同じだね」

「同じ、と言うのは?」

「貴族の振る舞いをよく知らないってとこが。……養女だから、あたし」

「そう、なんだ」

「養女になるまでは、ディラルド領のファイラッドで暮らしてた」

「ああ、だから……」

「うん、その頃の幼馴染みに『ルツィア』って名前の子がいたの。あだ名が『ルー』。だから勘違いしちゃった。髪と瞳の色が似てたから。間違ってしまってごめんなさい」

 ユーナは改めて謝った。

 ルツィアは首を降って、「大丈夫。気にしてないから」と答えてくれた。

 その後は、クリスが自分の生い立ちの話になり、自然と『赤色探し』の方へ話題が向いていった。

「ルツィアは、エイディオル教官の指示で『赤色探し』をやることになったんだよね」

「うん。ユーナはトゥネスク教官?」

 ユーナは頷く。

「でも、なんであたしとクリスなのか、今でも不思議なんだけどね」

「それは、もう一つの『伝説の課題』をクリアしたからだと思うよ」

「やっぱり、そうなのかな。ルツィアの方はどうなの? どういう理由で取り組むことになったの?」

「教官の考えは判らないけど、わたしの理由は『異質の赤(ルボル・ヘテロゲナエ)』、かな」

「なにそれ」

 ユーナの知識にはない用語だった。それはクリスも同じ。


「広い意味では『異質の赤』は『自分の赤(ルボル・イプセウス)』に含まれるんだけど、他にはない特徴があるの。それは……」

「それは?」

 ユーナとクリスはごくりと喉を鳴らして次の言葉を待つ。

「『偏向発現』と呼ばれる現象」

 またナゾな専門用語が出てきて、ユーナはこめかみを押さえる。

「えーと、それはいったい、どんな?」

「簡単に説明すると、その赤色を使うと、発現形式が変わってしまうの」

「例えば、水が火になるみたいな?」

「そこまで極端なものではないけど、例えば、〈氷結(フリーレン)〉が〈融解(シュメルツェン)〉に変わるくらいのことはあるわね」

「へえ、それはすごい」

 ユーナの瞳が輝いた。

 そんな便利なものがあれば、呪猟のやり方にも幅が出る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ