闇は少数派
「良い機会だから、アンナも試してみれば?」
クリスがアンナに『番外の緋』を渡す。
「そうですね、せっかくですし」
アンナは両手で緋を握りしめ、目をつむった。クリスの時と同じように光の球が現れる。その範囲は、クリスより大きかったが、ユーナと比較すればずいぶんと小さい。
「では、次はランティエさん」
緋を渡されたランティエは、戸惑いながら、「では、失礼して」と緋に持力を込める。
次の瞬間、ユーナ達は眩しさのあまり目をつむった。
ランティエの持力量はユーナ並みに強かった。それが発光するものだから、眩しさは半端なものではない。
しかし、それも一瞬のことで、ランティエはすぐに持力を込めるのを辞め、「お粗末様でした」と言ってクリスに緋を渡した。
「さすがですね、ランティエさん」
「私、持力量は多いんです」
ランティエは、自慢する風でもなく、自然ににこりと微笑んで見せた。
「やっぱり闇系はあたしだけか……」
ゆゆしき事態だ。自分だけ仲間はずれというのは気分が良くない。
こうなったら、ニキアにもやらせてみようか。でも、彼女は光系の気がする。あんなあけすけな性格の奴が闇系というのは、イメージが湧かない。
そう言えば、レオンハルトはどうなんだろう。だが、あの男が、簡単に持力性質を計らせてくれるとは思えなかった。それに、自分と同じ闇系だったとしたら、それはそれでイヤな気もする。
「この『番外の緋』を使って、『自分用の赤』を探す訳ですね」
アンナは、手にした緋をまじまじと見つめた。
「そうなんだけど、トゥネスク教官が言うには、対象の赤を持って、緋に最大限の持力を込めて、発現が最も大きいものが『自分用の赤』だって言うのよね……」
「ですが、そのやり方だと、比較論になります。いつまで経っても見つけられないのでは?」
例えば、ある赤色が他の赤色より発現が強かったとする。しかし、それよりも強力な赤が存在しているかもしれない。そして、強力な赤を見つけたとしても、また違う赤色があるかも知れない。つまり、より強い赤色が存在する可能性はどこまでも存在し続ける。だから、いつまで経っても『自分用の赤』は見つけられない。ということになる。
「トゥネスク教官に言われた通りにするだけでは、『赤色探し』も『幽体捕獲』と同じ『遂行不能課題』、ですね」
クリスが綺麗な顔を少しだけ歪めた。
「『幽体捕獲』は抜け道があったわけじゃない? だから、この課題にもそう言うのがあると想うんだけど……」
と言いながら、ユーナはアンナを見る。何か策が無いか期待して。
しかし、アンナは首を振った。
「今のところ、思いつく案はありません」
「そう……。じゃあ、ランティエさんさんは?」
年長者のランティエさんなら、ユーナ達が知らないことも沢山知っている。
「とりあえず、はっきり言えることは、」
「言えることは?」
「課題とは自らの手で成し遂げてこそ意義があると思います」
「ソウテスネ……」
普段はそうでもないが、ランティエはこういう時は手厳しい。
「ともかく、手当たり次第でも良いので、赤色を試してみませんか?」
「そうだね。そうしよう」
あまり良い策を思いつけないので、まずは街に出てその辺に存在する赤色を片っ端から試してみるしかない。
赤色と言っても建物に使われるペンキ、服などに使われる染料と、顔料。花や果実。ディトーの家で見たように、肉だって焼かなければ赤い。道端の石だって赤い物があったりする。
つまり対象は膨大な訳で、それらを比較しながらより大きな発現をするものを探すのは、本当に至難の業だ。
「赤色師の保管庫に行けば多種多様な赤色があるはずですよ。まずは、そこに行ってみてはどうでしょう」とアンナ。
「それは、名案かも」
渡りに船とはこのことだった。
3人いる赤色師の内、まずはディトーの保管庫に行くことにする。
そこでは、久しぶりの再会が待っていた。
翌日、講義も実技もない空き時間に、ユーナはクリスと一緒にディトーの研究室を訪れた。
この部屋も、実にディトーらしいインテリアだった。つまり、赤一色の室内。
もしかしたら、この室内の赤色に『ルボル・イプセウス』があるかも知れない。と思うと、ただのカーテンも注視してしまう。
「お前たちか。入りなさい」
机に向かっていたディトーが入り口に立つユーナ達に視線を送った。
「あ、はい。お邪魔します。……あの、あれ、ちょっと良いですか?」
ユーナはカーテンを指さす。
ディトーはその意図を理解したらしく、「ああ、いいよ」と答えた。
「クリス、ちょっと見ててね」
「はい」
クリスが頷くのに頷き返して、ユーナは赤色のカーテンを触る。目をつむる。
すぐに見つかるとも思えないが、やってみないことには始まらない。
持力を込めるのと同時に、闇が広がる。
クリスは、闇の中に飲み込まれないように身を退いて、闇の範囲が以前見たときより大きいがどうかを確認した。
「もう大丈夫ですよ」
クリスの声にユーナは持力を込めるのを止めた。
「どうだった?」
「赤色を使わない場合とそれほど違いはありませんでした」
「そう。やっぱり簡単には見つからないよね。じゃ次はクリスね」
ユーナはクリスに『番外の緋』を渡した。
目を瞑ったクリスが持力を込めると白い光が現れたが、その大きさは前回見たのとそれほど差は無かった。




