焼き加減の好み
「どうしたんだ、二人とも」
ディトーはなんの躊躇いもなくほぼ生肉にフォークを刺す。こういう超レアを好む人もいるとは聞いたことがあった。
冷蔵技術がそれほど発達していないこの時代に、生のまま食べられる肉というのは貴重だ。それを一介の館生に食べさせようというのだから、歓待してもらっているのは判った。
その一方で、ユーナのナイフとフォークを取る手は止まった。
生肉は、ちょっと……。
クリスを盗み見ると、彼女も同様のようだ。
迷いはあったものの、言ってみることにした。
「えっと、わがまま言って良いですか?」
「内容による」
ディトーは、ナイフで肉を分断する。
「お肉なんですけど、もう少し焼いてもらえないかな、なんて」
「なに⁈」
鋭い視線がユーナに突き刺さる。
饗された食べ物にケチを付けるマナー違反も良いところだ。それでもユーナが文句を言ったのは、このままだと一口も食べずに残してしまうことになると思ったからだ。それはそれで、相手に失礼に当たる。
今回ばかりは、ディトーの視線をそのまま受け止め、反発はしないでおいた。
ディトーが怒っても当然だと思ったからだ。
しかし、当のディトーの反応は想定と違い、落ち着いたものだった。
「なんだ、そんなことか。そうだな、最初に好みの焼き加減を聞かなかったのは悪かった」
ディトーが壁に視線を向けると、そこに立つ赤いメイドが、すっと、一歩前に出た。
「焼き加減はいかがなさいましょうか」
「ドゥルヒ(ウェルダン)で」とユーナ。
「では、わたしも」とクリス。
いったん、テーブルから食べ物が赤いメイドによって下げられた。




