去り際の後始末
翌日から片付けが始まった。
家財道具が、あれよあれよと言う間に人の手に渡っていった。
物心ついたころから使っていた物が多いだけに、次々と家から家財が持ち出されていく様子を見守るのは、ユーナにとっては辛い作業だった。
作業はカヤが手伝ってくれた。手伝いというより、カヤが取り仕切ったようなものだ。
ひとつ想定と違っていたことは、カヤは家財道具を売っていたことだ。ユーナが記憶している限り、カヤは司祭に対しては家財は人に譲ると言っていたはずだった。不思議に思ったユーナが訊いてみると、
「ああ、司祭に言ったことかい? あれは嘘だよ。誰が金を巻き上げられるような真似をするもんかっての」
カヤは、しれっとそう教えてくれた。カヤの話では、孤児院に入る子は金品を没収されるのだという。
「だとしたら、そのお金、あたしはどうすれば良いの? 孤児院に持っていく訳には行かないんでしょ?」
「誰かに預けておけばいい。あたしが預かっても良いけど、確か、ユーナは商人の知り合いが居ただろう?」
確かにユルゲンに預けた方が確実だろう。
だが、ユルゲンに対しては借金がある。実際のところは返済になるだろう。気になるのは売却額がどのくらいなのかだが、とりあえずユーナは「わかった」と頷いて、カヤの意見を受け入れることにした。
「その方が賢明だ」
カヤはそう言って、家財を売っていたできた金をユーナに渡す。
グロッシェン貨がじゃらじゃらと手のひらに乗せられた。すぐに数えられないが、おそらくユルゲンからの借金をすべて返せる額はなさそうだった。
「それから、これを」
とカヤが見せたのは、ペンダントだった。古い物だがよく作り込まれていて、値段は張りそうに見える。
「棚の上に置いてあったんだ。多分大事な物だろうと思ってね。売らずにおいた」
ユーナはイルザが最後に教えてくれたことを思い出した。このペンダントは、イルザが言っていた頼るべき相手に見せる必要がある物。ユーナの身元を保障する代わりになる物だ。問題は、このペンダントを持ち歩いていると没収される恐れがあると言うこと。
「これも商人の知りあいに預けておきなさい」
「うん、そうする」
ユーナはカヤの助言に従うことにした。
翌朝、広場まで出向いて、ユルゲンと会う。
ユーナの現在の状況を説明すると、ユルゲンは顔を暗くして、「わかった。そう言うことなら仕方ない」と一応は納得してくれたが、「だが、借金は借金だ。いずれ返してもらうぞ?」と商人らしいがめつさも見せる。しかしそれも、ユーナとの関わりを完全に絶たないようにするための方便のようにも思えた。
それから、ペンダントも預かってくれることになった。ペンダントを見たユルゲンは「ほう」とつぶやいて、じっと精緻な装飾を見つめていた。
「こいつはすごい。貧民の子供が持っているようなもんじゃない。……この紋章は貴族の物だろうな」ユルゲンはペンダントに彫り込まれた龍の模様をそう評した。
「どこの貴族か判る?」とユーナ。
イルザが今際の際に言っていたはずなのだが、ユーナはそれを聞き損じてしまっている。ペンダントの模様から貴族の名前が判るなら、はっきりさせておきたいところだ。
「さあな。貴族の紋章なんて、商売に関係してこないからな……」
つまり、知らないと言うことだ。
ユルゲンは、ユーナの出自には貴族が関係していると解釈した。場合によってはユーナが貴族の隠し子なんてこともあり得るとまで考えを及ばせる。
もし仮に、ユーナに縁のある貴族がユーナを探していたとしたら、その手助けをすることは利益に繋がる可能性がある。
だとしたら、恩を売っておいても損は無いだろう。
ユルゲンはニヤリとして「判った。預かろう」と言ってペンダントを握りしめた。
「確か孤児院は12歳になったら外に出ることになるから、預かるのはそれまでの間だな。その間に俺がどうにかなった時は、こいつに任せる」
そう言ったユルゲンがぽんと肩に手を置いた相手はウドだった。
「お、俺?」
ウドは驚いてユルゲンとユーナを交互に見た。最近のウドは身だしなみもきちんとしているので、貧民上がりには見えない。客からはユルゲンの隠し子と間違えられることが頻繁らしいが、その度にユルゲンが否定しているらしい。
「わかった。任せておけ」
どんな責任が自分に降ってきたのかよく判らないまま、ウドは請け負った。
「よろしくね」
「お、おお」
ウドのきょとんとした表情に一抹の不安を覚えるが、責任感の強いウドなら大丈夫だろうとすぐに思い直したユーナだった。




