司祭との出会い2
「君のような幼い子供が一人で生きていくのはとても大変だ。食べる物も必要になる。着る物だってそうだ。そういった物を、君は一人でどうにか工面できるのかい? 難しいんじゃないかな?」司祭は、自分の質問に対して、すぐさまユーナから肯定の返事が聞けるものと思っていた。
ユーナは『氷売り』で稼ぎを得ることが出来ている。ただ、ユーナがそれだけで生計を立てられるかと問われれば、それは否だった。
1人で家を借り、服を着、食べて生きるのはそう容易なことではない。論理的には判らなくとも、ユーナは漠然と理解していた。
そこにイルザという寄る辺を失った事実が、恐怖にも似た不安感を煽る。
いつでも、どこでも独りきりという事実。生きるための全てを自分で成し遂げなければならないという事実。
それらを突きつけられた子供が、なんの動揺もしないなどと言うことはあり得ないだろう。むしろ不安に押しつぶされそうになるのが道理ではないだろうか。
ゆえにーー。
同じ境遇の仲間が居るというなら、そういう場所に身を置くのは悪いことではないかもしれない。ユーナがそう考えてしまうのは無理のないことだった。
ただひとつ、気がかりがある。
イルザの遺言だ。
「イルザは人を頼れって言ってた」
司祭の眉がぴくりと動く。
「ほう、それは、誰なのかな?」
「ちょっとすぐには……」
ユーナはイルザが言っていた名前を正確に思い出せなかった。その時はイルザのことで頭がいっぱいで聞いている余裕などなかったのだ。
「ふむ、平民なのかな? 貴族ということはないよね? それならどうかな、その頼る人が見つかるまでの間、孤児院に身を寄せるというのは。もちろん、その人を探す仕事はわたくし達もお手伝いしますよ?」
その申し出は願ってもないことのようにユーナには思えた。実際、頼るべき人をどうやって探せば良いのか、見当もつかないのだ。
「それだったら、孤児院に行っても良いかも……」
「そうですか、それは良かった」
と言う司祭は、にこやかに笑って見せているようでいて、その実、目論見が上手くいったことをほくそ笑んでいた。
その思いは明らかに彼の表情にも表れていたが、幼いユーナには読み取ることが出来なかった。
「それでは、行きましょうか」と司祭が手を差し伸べる。
「え? どこへ?」
「もちろん、あなたの新しい家へですよ」
司祭はユーナに近づき、逃がさないとばかりにユーナの小さな手をぎゅっと掴んだ。




