司祭との出会い
葬儀はユーナが自失している間に進んでいった。
地区聖堂の司祭が気忙しげに祈りを捧げて去って行った。それから棺桶屋が来て、共同で使う棺桶にイルザの遺体を移そうとする。
この時になってようやく、ユーナは我を取り戻した。
「待って、イルザをどうするつもりなの?」
遺体に取りすがろうとするユーナを隣のおばさんが抱きしめて、引き留めた。
「おばさん、離して! イルザが! イルザが!」
「ダメよ、ユーナ。イルザは死んだの。弔ってあげなければならないの。聞き分けてちょうだい」
ぎゅっと抱きしめられる。イルザとは違う女の人の匂いがした。
身をくねらせて束縛から逃れようとするが、大人の力には敵わない。イルザは棺に入れられて、そのままどこかへ連れ去られた。
それを見送ることしかできなかったユーナ。
ようやく、涙が頬を伝った。それは止めどなく溢れ、ユーナの視界を歪ませた。
感傷に浸る暇も与えられないまま、次の試練がユーナを襲うことになる。
イルザが運ばれていった日の昼過ぎのこと。
「失礼しますよ」と声をかけて、身だしなみのしっかりした男が、張り付いたような笑みを浮かべながらユーナの家に入ってきた。
男の服は白を基調として黄色や黒の刺繍が施されており、かなり凝った物だ。ユーナは知らないが、それは聖堂司祭が用いる服だった。
つまり、男は宗教関係者だった。
そんなこととはつゆ知らないユーナは、少ない経験ながらも、男がうさん臭いと見て取った。いつまでも同じ笑みを維持しているのが気持ち悪かった。
「君がユーナちゃん?」
「そうだけど、あなたは?」
「私はこの地区の教区聖堂を与るブルーノ・アレクス司祭と申します。今日はユーナちゃんに相談があってきました」
「聖堂の人が何か用ですか?」
「ユーナちゃんは身寄りを亡くしたそうだね。残念なことだ。お悔やみ申し上げる」と言ってからアレクス司祭は手を組み、祈りを捧げるポーズを取った。それが終わると、さらに言葉を続ける。
「君のような小さな子供が一人で生きていくのはとても難しいと思うんだ。そこでどうだろう、私は聖堂に付属して孤児院を開いている。ユーナちゃんもそこに来る気はないかな?」
「孤児院?」
その名称は、ユーナの頭の中では悪いイメージと共に記憶されている。確か、イルザが『関わるな』と言ったものの1つに入っていたように思える。
「そうだよ。君のように親を亡くした子供たちを引き取っている施設だ。孤児院なら、食事に困ることもないし、同じくらいの歳の子供も多いから寂しくないんじゃないかな」
もしウド達のような子供が居るのなら、孤児院に行くのも悪くはないのかも知れない。
引っかかるのはイルザが言っていたことだ。どうしても、孤児院というところに良い印象を持てない。




