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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
ユーナとルーとファイラッド
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貯金と恩返し

 ユーナとしては、ウド達、特にルーの生活を改善できる手伝いができればそれで良く、見返りも欲しいとは思っていなかった。自分の取り分もあるし、損はしていない。そのことを正直に話してしまっても良いが、それだとウド達が納得しないのではないかと思えた。

「じゃあさ、大人になってから何かで返してくれればいいよ」

「それで良いのかい?」とアル。

「うん」

「何かって、なんだよ?」とウド。

「それも含めて考えるってことで」

「……判った。この恩は大人になったら必ず返す! な、みんな!」

 ルーも含め、全員が頷いた。

「判った」

 と、この時は答えたものの、ユーナは彼らの恩返しのことなどすぐに忘れてしまった。もともと見返りを期待した訳でも無かった。それを思いだすのは、学館に入館してからのことだから、だいたい8年後のことになる。


 日が経つにつれて日差しが強くなり、気温も上がっていく。それに比例するように氷の売れ行きも伸びていった。

 市が立つ度、ユーナとルーは大忙しになった。

 儲けが増えるのは嬉しかったが、へとへとに疲れきることもしばしばだった。そんな日は家に帰ると頭をこくりこくりと揺らしながら食事を採り、いつの間にか眠ってしまってイルザにベッドへ運ばれた。

 そんなことを繰り返したというのに、イルザは何も言ってこなかった。それがユーナには不思議だった。

 ただ、ユーナとしても、氷売りのことをずっと秘密にしているつもりはなかった。取り分のお金がある程度貯まったら、まとまった額ををイルザに渡すつもりだった。

 そして、貯金が2シリングを超えた日の夜。

「イルザ、ちょっといい?」

 食事の後片付けを終え、椅子に座って一息吐いたイルザに話しかける。

「どうしたの?」

「えへへ、なんだと思う?」

 ユーナはイルザが喜ぶ表情を想像しながらもったいを付けた。

「最近、何をやってるのか、話してくれる気になったのでしょう?」

 イルザは目の下にクマができた顔に笑みを浮かべた。

「まあ、そうなんだけど……」

 ユーナは言い当てられてちょっとつまらなそうにしながら、2シリング分の複数の硬貨を手のひらに乗せてイルザに見せた。そこには10グロッシェン硬貨、20グロッシェン硬貨、50グロッシェン硬貨もあった。

「2シリング分あるはずだよ。……イルザにあげる」

「これを、どうやって?」

「別に悪いことはしてないよ。働いて稼いだだけ」

「働いた……?」

 ユーナのような子供がどうやって賃金を得られる仕事を得たのか、イルザはすぐには思いつかなかった。

「市の商人と一緒に、氷を売ったの」

「氷……。そう。あなたはもう持力が使えるのね」

 イルザに驚く素振りは見えず、それどころかユーナが持力保持者であると前から判っていたような口ぶりだった。


「うん、あたしの力は水を凍らせることなんだって。だから夏になったから氷を売って儲けようと……」

「ちょっと待って。それはどうやって判ったの?」

「えと。それって何のこと?」

「あなたの持力が『氷を凍らせること』だと、どうやって判ったのかと訊いているの」

「あはは」

 ユーナは軽く笑った。『男性凍結&解凍事件』をどうやって説明すれば穏便に済むのか、全く思いつけない。

「話せないようなことなの?」

 と言われてしまっては、悪いことは一切していないことを証明する必要がある。ユーナは洗いざらい話すことにした。

 ……。

「まったく、そんな危ないことをして……」

 説明を聞き終えたイルザは感心半分、呆れ半分といった様子でため息を吐いた。

「ごめんなさい。でも、悪いことはしてないよ」

「まあ、何事もなかったのだから、良しとしましょう。でも、もう一つ訊かせて?」

「なに?」

「あなたの持力が『水を凍らせること』だと教えてくれたのは、誰なの?」

 その質問をした時、イルザの表情は真剣なものに変わっていた。

「ルー、だよ」

 ユーナは気圧され気味に答えた。

「ルーと言うのは、浮浪児の友達の一人ね?」

 想定と違った答えに、イルザの表情はいっそう険しくなった。

「そうだけど……どうしたの? イルザ、なんか怖いよ?」

「本当にその子なのね? 大人じゃないのね?」

「うん」


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