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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
ユーナとルーとファイラッド
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氷売りとイルザの体調

「それはそうと、人を凍らせるのがあたしの魔力ってことなの?」

 だとしたら、とてもイヤな能力だった。

 ルーは首を振る。

「水を凍らせる魔力、だと思う。だから、人間に限ったことじゃない」

「そうなんだ」


「それって、季節に関係なくできるのか?」

 何かを思いついたアルがルーに確認する。

 ルーは「季節は関係ない」と答えた。

「ふむ」とアルはあごに手をやり、考え込む。

「お、何か思いついたのか?」とウド。

「夏でも氷が作れるんなら、それを売れば儲かるんじゃないか、と思ってね」

 暑い夏は誰もが涼を求める。氷ならそれに打ってつけだ。しかも、いわゆる競合相手も存在しない。

 そのことを理解するのにウドは2秒くらい必要だった。時間経過後、

「そりゃ、凄いじゃないか! 良く思いついたな!」

 ウドはアルの背中をばんばん叩いた。アルは迷惑そうにしながら、

「もちろん、ユーナが許してくれれば、の話だけどね」

 と付け加えた。

 ウドは真面目な顔をしてこっちを見る。

「あたしは構わないよ」

「ありがとう、ユーナ! お前は俺の心の友だ!」

 はしゃいでいると言って良いくらい大喜びのウドは、ユーナの背中も叩いた。

「ちょっと、痛いってば!」

「ああ、すまん、すまん」

「まあ、夏になってからの話だけどな」とカッツ。


「でも、ほんとにあたしに出来るのかな?」

 疑問を口にしてみる。

「凍らせてたじゃないか」とウド。

「うん、でも、まぐれってこともあるんじゃないかと思って」

「だったら、試してみればいい」

 ウドは道端の小さな水たまりを指さす。

「ユーナ、緋針を使って?」

 ルーから手渡された細い棒を握る。

「これを水たまりに入れれば良いの?」

「それから、凍った物をイメージしてみて」

 目をつむる。凍った物と言うと、緋針を奪い合った男を思いだしてしまう。それだとあまりにもイメージが悪い。他の物がないか考えてみて、雪を思いついた。

 あんな風に白く綺麗に凍らせたい。

 なので、『雪になれ』と念じてみた。

 水たまりはあっさりと凍り付いた。『雪のように』とはいかなかったが、表面に模様ができて、それが陽の光を複雑に反射する様は、とても美しく思えた。


「おお、やっぱすげぇな」とウド。

「へえ、これが」とアル。

 こういう普通じゃないことをするとたいていの場合、敬遠されることが多い。でも、ウド達にそんな気配はなかった。

「なあ、ルー。凍らせるのに緋針は必須なのか?」

 アルが、何かを思いついたようだった。

「違う。けど、あった方が良いのは確か」


 持力発現に慣れていない初心者が緋鋼を媒介に使うのは良くあることである。


 アルはウドの方へ視線を向けた。

「だとしたら、緋針を売るのは止めておいた方が良いぞ」

「うん、そうだな」

 アルの提案にウドが賛同する。

「ユーナ、それ、お前にやるよ」

「あたしに?」

 ユーナは困惑を覚えた。

 理由は2つある。

 1つは、緋針は換金して生活の足しにするはずだった。そうしないと、ウド達の生活が上向かない。それで本当に良いのか? という疑問。

 2つは、譲って貰ったとして、誰にも知られずに隠し持つことが可能なのか? という疑問。

 家の中に隠すには、イルザの目をごまかせる自信が持てない。正直、子供の手には余るシロモノだ。


 しかしその一方、浮浪児のウド達には緋針を隠す場所と方策がない。以前、ユーナを頼ってきたことからもそれは明らかだ。

 さらに、緋針を扱える人間が所持するのがもっとも理に適う。

 そういった所々の理由から、ユーナはいつも持ち歩くことにした。

 それはとにかく、緋針によってウド達の役に立てるのは、ユーナにとって嬉しいことだった。

 ただし、氷売りを始めるのは暖かくなる春以降にすることになった。

 それまでの間、ユーナは緋針を使って練習をすることにした。


 練習を続ける内に、自分の魔力、つまり持力がどのような特性を持つのか、判るようになってきた。

 凍らせられる対象は、水を含んでいる物すべて。清水だろうが、泥水だろうが関係ない。生き物では試さなかったが、対象になるのは間違いない。

 凍らせる範囲は結構広い。見渡す限りの水分を凍らせることが出来た。逆に意識を絞り込めば、手のひら程度に範囲を絞ることも出来、応用は効きやすいようだった。

 そして、ルーが言ったとおり、凍らせることは出来るが溶かすことは出来ない。これは何度試してもダメだった。


 中央広場に向かう途中で遭遇した男は、凍った後に溶けて戻った。凍ったのはユーナの魔力のせいだとして、溶けたのはどうしてなのかが判らない。

 やはり、ルーが何かをやったと考えるのが妥当に思えた。もしそうだとすると、ルーも持力保持者ということになるのだが、ルーはそういったことは一切言わなかった。

 理由はどうあれ、隠しておきたいのだと思ったユーナは、黙っておくことにした。


 イルザの体調が思わしくないとユーナが気づいたのは、春を迎えたばかりの頃だった。けほけほと咳をするし、顔色も以前と比べると良くない。

 大丈夫なのかユーナが訊くと、イルザは

「このくらい何でもない。すぐ治るわよ」

 と笑顔で答えた。

 ユーナは一抹の不安を覚えずにはいられなかった。しかし、大人の言うことだから、大丈夫なのだろうと思うことにした。


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