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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
水と炎と決別と。
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爵位継承の儀2

ユーナが皇帝陛下の前に参列するのは、これが2度目だ。前回はジルベルト皇太子殿下の妃候補を集めた会合で会っている。

その時にも思ったことだが、

黒髪で細身の陛下は、線が細く神経質そうだ、

と改めて確認していると、その皇帝陛下と、バチッと目が合った気がした。

たまたま視線が交差した、とか言うレベルではない。

明らかに陛下はユーナを見ていた。

しかし、それもごく僅かの時間の出来事。

陛下は、満足げに頷いて見せてから、視線を外した。

……?

今の頷きは、なに?

明らかにユーナに向けたジェスチャーだが、意味が判らない。

気のせい?

それで済むなら話は早いのだが、そうではない。たぶん。

なんとなくイヤなものを感じつつも、ユーナは表情を変えずに沈黙を守った。


「伯爵位及び『皇帝陛下の魔術師』の位階を継承するレオンハルト・リッツジェルド、御前へ」

宰相の声で、広間の後方の扉が開く。

参列している貴族達の一部がざわつくが、それもほんの少しの時間のことで、すぐに静寂が戻ってきた。

靴が石の床を叩くリズミカルな音に混じってもう一つ、床を叩く音が混じっている。

それが杖の音だとユーナが判ったのは、ユーナの立つ位置よりも皇帝陛下に近い位置に、レオンハルトが現れた時だった。

白い礼装に青いマント、そして装飾の施された、見るからに高価そうな杖。

その杖が長く見えてしまうのは、レオンハルトの身長が大人になりきっていないからだろう。


レオンハルトは皇帝陛下の御前でひざまずき、両手の平の上に杖をのせ、頭を垂れる。

宰相が陛下を促すように、礼をすると、それに応じて陛下が立ち上がり、壇を降りてレオンハルトに近づいていく。

そしてレオンハルトが捧げる杖をつかむと、その先端で、レオンハルトの左肩

、次いで右肩、さらに頭頂部を軽く叩き、最後にその杖をレオンハルトの手の上に戻す。

「レオンハルト・リッツジェルドを新たな伯爵、新たな『我が魔術師』とし、その領地と位階を、我が権威の下に安堵するものとする」

皇帝陛下はそう宣言すると玉座に戻った。

それを見計らってレオンハルトは立ち上がる。

「クヴァルティス帝国の伯爵の1人として、陛下の権威を重んじ、帝国の威光の一助となることを宣誓いたします。また、『皇帝陛下の魔術師』として、魔術面での諮問役を担い、同時にクヴァルティス帝国術士の目標、模範として努めます」

「期待している」

レオンハルトは再び頭を垂れる。

そして顔を上げると、

「この場をお借りして、今ひとつ、ご承認いただきたい儀がございます」

と、レオンハルトは告げた。

レオンハルトがいきなりお願い事を言い始めた訳ではなく、これは前もって調整が為されていることだ。なので皇帝陛下も、参列する貴族達も、静かにそれを受けとめた。

ただ、皇帝陛下の口元がわずかに緩んだように、ユーナの目には映ったのが気がかりと言えるかも知れない。

「許す」と陛下。

「ありがとう存じます、陛下。わたくしのお願いはただひとつ、婚約のお許しを陛下より賜ること」

そーか、レオンハルトもとうとう婚約者を持つのか。ユーナは無関係な第三者のように、そんなことを考える。

いや、今まで婚約者が居なかったことの方がおかしい。レオンハルトがなぜ婚約をしていなかったのか理由は知らないユーナだが、爵位継承を期に身を固めることにしたのだろう。

まあ、相手の女性は大変だろうけど。

まあ、それを言うなら、この面倒くさそうな男と気が合う女の子が居るかどうかも疑問だけど。

貴族の結婚は男女の好みとか愛情の有無ではないとも言うし。

貴族令嬢なら、割り切った婚姻もあり得るんだろうな……。

などと考えていたユーナだったが。

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