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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
水と炎と決別と。
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爵位継承の儀

リッツジェルド家の爵位継承の儀は3日後に迫っていたが、ユーナはその間、クレスツェンツと連絡を取って会ったくらいで、その他の時間は屋敷にいた。

一方の養父&兄のザツィオン2人は、とても忙しそうにしていた。朝食後、すぐに外に出かけ、夜遅くに屋敷に帰ってくるというたいへんさだ。

ユーナには彼らが揃って何をやっているのか、知らないし、知ろうとも思わなかった。

まあ、もしユーナが訊いたとしても、2人は誤魔化して応えなかっただろうけれども。

リッツジェルド家の爵位継承の儀の日の、朝。

ユーナはアルア市で仕立てたものの、ついぞ着る機会の無かったドレスを、今回着ることにした。

ドレスと言っても、少女用のフォーマルなので、可愛らしさのある服になっている。

爵位継承の儀は帝国の公式行事なので、たとえ子供でも正装が必須なのだ。


昼食を終えてからゆっくりと支度を整え、養父&兄の2人のザツィオンに連れられて帝宮に赴く。

場所は帝宮内の謁見の間。

ユーナ達が広間に入ると、既に中に居た人たち(ほとんどが貴族)の視線が、一斉にユーナ達に向いた。

いや、正確には、養父ザツィオンへの視線が7割、兄ザツィオンへの視線が3割で、ユーナへの視線はわずかなものだった。

視線を向けてくる人たちの表情には、困惑や不安の色が見え、中には少ないながら敵意剥き出しの視線も感じることができる。

「どういうことでしょうか?」

恐いわけではないものの、貴族達の反応に困惑したユーナは、養父ザツィオンの袖を引っ張って小声で訊いてみた。

それに答えたのは兄の方だった。

「考えてもみなさい、リッツジェルド家は術門貴族の筆頭格。それに対して我々は?」

武門貴族の筆頭格ーーなるほど。

ユーナは得心して、無言で頷いて見せた。

つまり、リーズ家はこの場に歓迎されていない。

この場は術門貴族の集いであるべきで、武門の者は異質。

だからこその困惑、だからこその敵意。

と、そういう言うわけだ。

そうと判れば、対応はできる。

ひたすら無視すれば良い。

この場にどれほどの高位貴族が列席しているかは知らないが、3大公爵家を除けば、リーズ家は武門、術門を合わせてもトップに位置する高位貴族。

その意味でこの場にリーズに逆らえる家門は居ない。

もしリーズの不興を買うような言動をすれば、その貴族が断絶するだけのこと。

……まあ、もちろん、そんなことは率先してやるつもりはないし、それは養父も兄も同じ気持ちだろう。

だからこれは、そのくらいの気概でこの場に臨むという、いわば覚悟のようなものだ。

ユーナは広間を、2人の後ろに付いて、長い距離を歩いた。何しろ、リーズ家は高位貴族なので、席はかなり前の方になるからだ。

その間、無遠慮な視線に晒される。

気分の良いシチュエーションではないが、我慢するより他に無い。

ユーナと2人のザツィオンは、皇帝が座る壇上の玉座を中心にして、その左側に参列した。

そして少し間を置いて、

「皇帝陛下のお出ましである、みな、礼を以てお迎えせよ!」

という、少し擦れの入った男の声が聞こえ、広間に参列した貴族達は、それぞれに頭を垂れ、最上級の礼で陛下を迎える。

ちなみに男の声は宰相のもの。確か、それなりに年齢が行った男性だったはず。

靴が床を鳴らす音と、衣擦れの後、玉座に人か座ったのが気配で判る。

「陛下より皆にお言葉を賜る」

とまた宰相がする。次に聞こえたのはテノールの声だった。

「みなの参列に感謝する。新たな『魔術師』も、これほどの祝いの列を得て、誉と思うであろう」

続いて宰相の、

「ではみな、顔をあげよ」

という号令で、参列した貴族達は一斉に礼を解いた。

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