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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
ユーナとルーとファイラッド
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ウド達の仕事

 ウドが率いるこの浮浪児集団では、役割分担がしっかりしていた。そして食べ物や飲み物は平等。

 食料調達は主に男の子の仕事で、女の子は簡単な家事仕事の他、ゴミ山で売れる物などを探す。

 全てウドが取り決めたルールだった。

 ウドはかなり統率力がある男の子だった。彼の存在がこの浮浪児集団をまとめ上げていたと言って良い。ちょっと前まではもっと人数が多かったらしい。確かにウドには20人くらいは余裕で統御出来る才覚があった。


 彼らは日々の糧のために一日を過ごしていたので、遊ぶと言っても彼らの手伝いをすることが多かった。


 女の子の仕事はゴミ山漁りがメインなので、ルーと行動を共にするということは、必然的にゴミ山漁りを一緒にすると言うことになる。

 ゴミ山はその名の通りゴミの山で、貧困地区であってもそういうものは存在する。ただし、探しても売り物になるような物はそう簡単には見つからない。それもそのはず、貧困層が捨てる物に、そうそう価値のある物が含まれるはずがない。


 その上、競争相手がいる。同じようなゴミ漁りをする大人が多数。

 ルーとユーナはそんな中で山を掘り起こしていた。

 時々、見つけたものを横取りされることもあった。

 「それあたし達が見つけたのに!」

 とユーナが文句を言うと、

 「うるせえ」とか、「やるか?」とか、「売るぞ!」とか脅されてしま、退かざるを得ない。

 そうでないと、ほんとに殴られる。さすがに誘拐されてどこかに売られたりすることはないだろうが、安心は出来ない。

 彼らも生活がかかっているのだから仕方がない。


 ユーナたちはある時、貨幣を一枚見つけたことがあった。1グロッシェン硬貨で、1枚だけでは何かが買える額ではない。

 「ルー、こんなのあったよ!」

 硬貨が珍しかったこともあり、ユーナは思わず大声を上げてしまう。すると、大人たちが一斉にこちらを向いた。

 「なんだ? 何を見つけたんだ?」

 寄ってくる大人が数人。取られると確信したユーナはとっさに両手で隠す。

 「見せてみろ」

 大人がユーナのの両腕を掴んで手のひらを開こうとする。大人の、しかも男の力に幼い女の子が抵抗できるはずもなかった。手のひらに乗った貨幣を見た男は、

 「1グロッシェンか。ま、貰っておくぜ」

 「返して!」

 「俺が持っているんだから、これは俺のもんだ」

 どことなく蔑んだ感じの男の表情がかんに障る。だが、ここで男に掴みかかっても、振り払われて全く相手にされないだろう。諦めるしかなかった。


 「おいおい、大人気ないことするなよ」

 そう言って近づいてきた大人が一人。

 「ここでは見つけた物は見つけた奴の物だ。そういうルールだろう」と男は、貨幣を奪った男を諭した。

 「カールさん」

 ルーが男の名前を呼ぶと、カールはにこりと笑みを返した。そして、貨幣を握る男に手を差し出す。

 「返してやれ」

 カールは二十歳を超えたくらいの青年で、この地区では向かうところ敵なしの腕っぷしだった。その彼に睨まれて、それでも抗う人間はそう多くはない。

 力では敵わないと理解した男は、

 「貨幣なんて、こんな幼い子に預けても使い道がないだろう? だから俺が貰ってやることにしたんだ」

 カールは黙ったまま男をじっと見つめる。

 無言の圧力に耐えられなくなった男は、舌打ちをして「わかったよ!」と投げやりに言って貨幣をカールに渡して姿を消した。


 「ほらよ」

 カールは貨幣を投げて寄こす。危うく取り損なうところだったが、それはなんとかユーナの手の中に収まった。

 「お前、ゴミ山は初めてか?」

 ユーナに向かってカールが訊いた。ユーナは首を振って答えた。

 「何か見つけたからって大声を出すもんじゃない。さっきみたいな奴はいくらでもいるし、いつも俺が居るとは限らないんだからな」

 「うん、ありがとう」

 「じゃあな」

 別れの挨拶をしてカールは山の向こう側に消えた。


 このカールという青年もイルザと同じように不思議な存在だった。身なりは貧困層のそれだが、けしてぼろぼろではなく、少なくともゴミ山で生計を立てるような階層の人間のそれではなかった。というより、着古した服が似合っていない。着慣れていないと言うべきか、どこかから借りてきたようなと言うべきか。

 そして、とにかく正義感が強い人だった。

 一度、ユーナは彼の喧嘩を見たことがあった。相手は盗みを働いたごろつきのようだった。

 「いいだろ、見逃してくれよ」

 「盗んだ物を置いていけば、な」

 「くそっ!」

 ごろつきが殴りかかる。

 けして筋骨隆々ではないカールが、身体の大きなごろつきを手玉に取っていく。彼の手にかかると、ごろつきが面白いくらいに軽くあしらわれていた。

 カールは明らかに正式な戦闘技術を身につけていた。それをユーナが知るのはもっとずっと後のことになる。


 この作業は手が汚れるので、家に帰る前に手を綺麗にしなければならなかった。

 帰る途中にある川で手を洗うのが日課となった。茶色い水が流れているような川だったけども。

 それから、服を汚さないように気を遣った。汚したのをイルザに見つかってしまうと、どこに行っていたのかを追及されてルー達とのことがばバレるかもしれない。そうなってしまうと二度と遊べなくなってしまう可能性があった。


 この年の冬はどう言うわけか、とても寒かった。

 ユーナは初めて雪という物をみた。白いものが空から落ちてきて、地面に触れると消えて無くなる。手で掴もうとしても水に変わる。

 それを不思議に思いながらユーナが楽しんでいると、雪は雨が凍った物だとアルが言った。

 ユーナは氷というものを見たことがなかった。


 寒くてゴミ漁りが辛くなった。

 それでもウドたちは生活のために続けるしかなかった。泥棒する頻度も増えた。リスクが大きかったけども仕方がなかった。

 ユーナは家から食べられる物を持ってこようと思いついた。しかし、これもリスクが大きい。食べ物をどこにやったのか、イルザに問い詰められれば、「食べた」としか答えようがない。一回くらいはそれで納得してもらえるかもしれない。でも数回続けば怪しまれるのは確実。

 それが判っていても、ユーナはやらないではいられなかった。


 備蓄食料は棚の上の方に置かれていた。幼いユーナには手が届かない。勝手に食べてしまわないか不安視したイルザの思惑と考えられた。

 ユーナが重い椅子を棚の場所に引きずっていって上に乗ると、ちょうど手の届く位置にブロートが見えた。そこから2個を掴み取って椅子を降り、元の位置にもどす。

 そして家を出てウド達のところに走った。


 家から盗めるブロートは一度に2個が限度だった。

 それを5人分で分けて食べる。ウドはユーナの分も取り分けてくれたが、ユーナは断った。

 みんなが感謝してくれたことに、ユーナは満足した。

 「ありがとう」とルーはにこりとして、固いブロートをもくもくと食べた。

 それを見て、ユーナは安心した。

 もともと保存が効くように固く焼き閉められた上に古くなってさらに固くなっている。スープとまでは言わないまでも、せめて水でふやかすことが出来れば食べやすくなるのだけど、贅沢は言ってられない。

 持ち出せたのは3回までだった。


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