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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
水と炎と決別と。
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バウタウバーの一族2 〜 レオンハルトの思惑

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

「謝罪は受け取ります、バウタウバー卿。今後は気を付けてください」

ユーナが許したので、レオンハルトも許さざるを得なくなる。

「わたしも、ユナマリア嬢と同じく、謝罪を受け入れよう」

そう言う声は、しかし、不服げに聞こえた。

「ありがとうございます」とブリギッテが頭を下げたのに対し、

「寛大な心の内をお見せいただき、誠に恐悦にございます」となぜか満足げな笑顔で、ゲーアハルト。

この彼の反応も、礼儀的にどうかと思える部分はある。だが、それに気付いたブリギッテが再びゲーアハルトをお仕置きし始めたので、ユーナは溜飲を下げることにする。

しかし、バウタウバー家では、いつもこんなどつき夫婦漫才が繰り広げられているのか?

ヘンリエッテも大変ね。 

などと、ユーナは要らぬ心配をしてしまう。その時、

「お嬢様、お部屋の用意が調ってございます。この後のご歓談は、どうぞ、屋敷内で」

クラウスが気を利かせて声をかけてくれたので、ユーナはそれに乗っかることにした。

「ありがとう、クラウス。では、バウタウバー家の皆様、どうぞ、こちらへ」

もう、仕方ないので家族全員を迎え入れることにした。


応接室では、ユーナは1人用ソファに座り、バウタウバー家の面々で2つの長ソファを使ってもらう。ユーナの座る位置からはテーブルが少し遠くなる。

アンナにも同席してもらい、彼女にはユーナと目で会話できる近い場所に立ってもらう。

紅茶で一息入れたゲーアハルトは、完全に落ち着きを取り戻していた。

「リーズの姫君、そしてリッツジェルドの若君、もう一度謝罪をさせていただきたい。先ほどの不作法、そしてご迷惑、申し訳ございません」

「今後、気をつけてくだされば大丈夫ですよ。ところで、わたくしのことはユナマリアとお呼びください、奥様もどうぞ、そのように」

「ご配慮、ありがとう存じます」

ブリギッテはそう言って頭を下げてくれたが、その時点でもまだ謝意を告げないゲーアハルトを、キッと見、

「ほら、あなたも!」

と、まるで子供を相手にしているかのように叱る。

ゲーアハルトは、素直に「ありがとうございます」と告げたが、その声は『言わされた』感がただよう。まあ、そこまで目くじらを立てるようなことでも無いので、ユーナはそのまま流すことにした。


「それでは、本題に入りましょうか」とユーナ。

「それでは、わたくしめからご説明を差し上げても?」とゲーアハルト。

今の彼なら大丈夫だろうと察し、ユーナは頷く。

ゲーアハルトが話し始めたのは、『精霊流』に関する知識だった。


レオンハルト視点。

「武門の御方は、ご存じない考えますので、まずは簡単に説明いたしましょう」

とゲーアハルトはまず『精霊流』の話をし始める。

武門貴族なら知らなくて当たり前、とゲーアハルトが考えてしまうのは当然と言えば当然のことなのだが、ユーナに限って言えば、それは当てはまらない。母ツェツィーリエから魔術を学んでいるのであれば、多少の知識は既に持っているはず。しかし、それをゲーアハルトに告げる訳には行かない。

というのも、なぜ知っているのかを問い詰められると、ユーナが持力保持者であることを感づかせてしまうかもしれないからだ。

それが判っているので、レオンハルトの隣に座るユーナも沈黙を守っていた。

「そも『精霊流』とは……」

とゲーアハルトの講釈は基本的な知識から始まり、やがて専門的な範囲にまで話が及ぶ。

「……つまり、素精霊、精霊の流れの中には、複合精霊が含まれると考えられるのです。これはいわゆる龍脈として精霊流が地を流れる間に取り込む魂のことでして……」

レオンハルトはその説明に頷いて関心を示す仕草をしていたが、内心では新しい情報が全くないことに興味が失せてきていた。

ゲーアハルトが語る情報は、学館でも教授されていない内容で、その意味では最先端の研究成果と言えたが、レオンハルトのリッツジェルド家は、さらにその先を行っていたからだ。

それも、バウタウバー家のような、『精霊流』が専門分野ではなく、あくまで『不絶糸(たえずのいと)』研究の派生知識として、である。

『精霊流』は、『不絶糸』を研究する上で参考になる部分が多いーーこれは彼の父ヴォルフラムの言葉だ。

レオンハルトがアルアの『領主の庭』に興味を持った理由もそこにある。

もちろん、本当の目的などユーナに話したりはしなかったが。

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