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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
水と炎と決別と。
639/664

お祭り風なお茶会とメルテヒルド4

土曜日投稿予定だった分です

例えば、権力を持つ相手の仲間と認められ、その力を貸してもらう、など。

下位貴族と上位貴族では、権力、経済力などて相当の開きが存在する。大抵の下位貴族は貧乏でこそ無いが、けして裕福ではない。もちろん例外もあるが、それはかなり稀な事例となる。

ゆえに、力のある貴族に取り入るというのは、上下関係と力関係がものを言う貴族の間では普通に行われることだ。

そしてそれは、下位貴族の令嬢自身の考えと言うより、その親の思惑であることも多い。

ここに集まっている令嬢の中には、その権力を持つ令嬢も確かに居る。皇太子の婚約者であるツェンツィはもとより、ユーナもヒルデも有力な家系に属している。


ツェンツィに従ったのはグリッドとリンデ。

グリッドは、どこかわくわくした表情をしているところから察するに、乗り気なのだろう。すでに切られているソーセージをパンに詰め、頬張る。

リンデの方は同じようにしながら、恥ずかしそう。だが、一度頬張ってみると、何か納得するものがあったのか、黙々と食べ始めた。

そんな同格の家柄の令嬢を横目で見つつ、レクシーは自分のやり方を曲げなかった。ナイフとフォークをマナー通りに扱ってソーセージを口に運び、パンは千切ってから口に入れる。それでもすべて平らげたのは、やはり美味しかったからだろう。

そんな中で、行動が一際目立っていたのはヘンリエッテだ。彼女は最初からブラートヴルストとして食べていたし、ヒルデとレクシーがああだこうだと言い合っている間も我関せずと言った様子でおかわりをしていた。

下位の立場で上位の言い争いに関わるのは、いろいろとリスクを伴うので、これはこれで正しい対処とも言えるが、それにしてもよく食べる。

すでにブラートヴルストは3つ目に手を付けていたのだから。


「ヘンリエッテ様は、このような食事の経験がお有りなの? あまり躊躇が無いご様子だけど」

と、ユーナのもう一つの目的を知っているツェンツィが、ヘンリエッテに話を振ってくれる。

無心にブラートヴルストを食べていたヘンリエッテは、口に含んでいた物を呑み込み、

「いいえ、そういう訳でもございませんが、おいしものをいただくことに、躊躇いはございません!」

……言い切った。

なかなかに気合いの入った口調で、食へのこだわりが感じられる。

「バウタウバー男爵家は、3代より前は確かスェツェンに居を構えていたのだよね? スェツェンに居た頃から貴族だった? あ、いや、気を悪くしないで欲しいけれど」

ヒルデがユーナの思惑を知ってか知らずか、話題が深まるよう仕向ける。ヒルデが『気を悪くしないで』と付け加えたのはヘンリエッテに対する気遣いで、もし3代前は平民だった場合、それを自ら話すのは気分が悪いだろうからだ。

「はい、曾祖父の代にはスェツェンで爵位を賜りながら研究塔に属していたと聞いております……」

それが何か? と言わんばかりの、キョトンとした顔でヘンリエッテは答えた。

「研究塔、か」

呟いたのは、ヒルデ。

ユーナとしてもその先の話を聞きたいところだったが、このお茶会の主催としては、テーブルの上に食べ物が無くなった状況は見過ごせなかった。

「ヘンリエッテ様のお話をもっとお聞きしたいところですけれど、皆様、次の食事はいかがですか? 焼き栗もシュネーバルも甘いので、デザートとして召し上がることができますよ?」

ユーナが誘うと、それぞれがそれぞれの執事に申しつけ、屋台から次の料理が運ばれてくる。

焼き栗を選んだのはヒルデ、レクシー、そしてユーナ。

ツェンツィとグリッドにリンデ、そしてヘンリエッテはシュネーバルを選択。


ヒルデとレクシーの前には皮付きの焼き栗が置かれている。

「栗の皮を剥かなくて大丈夫ですか?」

不安になったユーナは訊いてみることにした。虫栗対策に執事が皮を剥く手筈になっていたからだ。

ヒルデが栗剥きに夢中になっていたため、先に答えたのはレクシー。

「構いません。食料が不足する戦地では、よく栗を拾って食していた、と祖父にお聞きしたこともございます。わたくしも、それに習ってみようかと」

その考えは、武門貴族として素晴らしい?と言えるが、だからと言って虫栗に当たっても大丈夫かどうかは別問題だ。

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