マローニ(焼き栗)2
明日の投降はスキップするかも知れません。
よろしくお願いいたします
ユーナは綺麗に割った殻から栗の中身を取り出し、口に放り込んだ。
噛むと口の中のでほくほくとした舌触りと、優しい甘さが広がる。普段から砂糖たっぷりの御菓子を口にしていると、この甘さは物足りないかもしれないが……。
その時、焼き栗の袋から1つとりだしたリーゼが、手中の栗を見るなり、
「あ、当たりひいちゃったか」
と少し残念そうに呟いた。
「当たりって?」
「虫栗のことですよ」
とリーゼは当たりの栗を見せてくれる。
「そっか、そう言う問題があるか……」
一応説明しておくが、虫栗というのは、その名の通り、栗の中に虫が入り込んで中身を食べてしまっている栗のこと。虫が入り込んだ部分は食べると苦く不味い上、小さい芋虫のような本体が見えてしまう場合もある。
虫栗は殻に黒い点があるので見分けやすいのだが、時々、見分けがつかない物もあり、それが稀に商品に並んでしまうことは、どうしても避けられない。
さて、虫栗が当たる確率が0ではない焼き栗を、貴族のお嬢様達に供して、まかり間違って当たりを引いた場合、どうなるか。
まあ、間違いなく、そのお嬢様はパニックになるだろう。そうなると、そんなものを食べさせたユーナとの関係も悪化し、最悪、関係断絶もありうる。
ツェンツィならそんなことにはならないだろうが、それでも驚かせることになるだろう。
そう考えてみると、リスクは、ある。あるが、避けられないリスクではない。
ということで、焼き栗屋さんも採用することにした。
もう1軒の食べ物屋は、アルア市での出店は珍しいというシュネーバル屋にして、残る1件はキャンドル屋に出店を依頼する。
普通の蝋燭のほか、蜜蝋の蝋燭を扱っており、装飾も凝っていて、目の肥えたお嬢様達も満足させられるだろう。
出店関係者とのやり取りは、ほぼクラウスに丸投げとなったが、もともと覚悟していたクラウスは黙々と調整してくれ、大きな問題もなく、貴族のお嬢様のための祭りの日を迎えることが出来た。
招待状には、
アルア市の冬の祭の気分を味わっていただきたく
と書き添え、
随行には侍女の他に執事見習いを加えて欲しいことを書いておいた。
侍女の場合、例えば侯爵家などの高位貴族だと、侍女自身が下位の貴族の出身だったりする。そうなると、身に着けている慣習は貴族のご令嬢のものだろうから、例えば『焼き栗の皮を剥く』行為に卒倒する可能性がある。
その点、執事見習いならたいてい男性だし、たとえ貴族出身でも、対応できるだろう。
と、そんな思惑があっての添え書きだった。
招待状を送ったのは、前回の招待客である、
クレスツェンツ・リュリ・エイディス侯爵家令嬢、皇太子の婚約者で、ユーナの親友。愛称ツェンツィ。
アレクシア・トライエクト伯爵家令嬢、愛称レクシー。
マルガレーテ・バッハハルト伯爵家令嬢、愛称グリッド。
ヘンリエッテ・バウタウバー男爵家令嬢。愛称呼びはまだ(家格に差があると愛称呼びすることは稀)。
この面々に、さらに加えて、
前回は参加が叶わなかった、ジークリンデ・マルモルヴェヒター伯爵家令嬢、愛称リンデ。
メルテヒルド・ラルドバルド侯爵家令嬢
を入れることにした。
タイミング良く、メルテヒルドがアルア市に到着したことを告げる手紙がユーナの元に届いたからだ。
彼女との間には、因縁がある。
それはクレスツェンツも同じだ。
だが、それを乗り越えて関係を築くことは、彼女にも自分にも、クレスツェンツにも意義がある、とユーナは思っている。
そらから、今回の集会はもしかすると彼女に対する、他愛ないレベルの意趣返しになるかも知れない、とも。




