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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
水と炎と決別と。
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マローニ(焼き栗)

昨日の投降予定だった分です

「クラウスはどうする?」

リーゼも食べるなら、クラウスだけのけ者にするのは可哀想。

「はい、お許し頂けるのでしたら、ご相伴に与らせていただきたく」

「じゃ、3つね。……すみません、ブラートヴルストを3つください」

「はいよ」

ユーナは、鉄板の上で焼かれていたソーセージがそのまま来ると思っていたが、実際には切り込みを入れた丸いブロートに挟まった状態で渡される。ブロートからはみ出た長さの方が、パンの直径より長い。読者に判りやすいように表現するなら、大きめの団子1個が串に刺さっている状態。

ソーセージが熱いのはもちろんだが、ブロートも手で持つには暑いくらいの熱さだった。

代金を支払い、とりあえずはみ出たソーセージにかぶり付く。

じゅわっと肉汁が口の中に広がり、その後、カリカリに焼かれた皮の香ばしさが口に広がる。

「おいひい」

ユーナの呟きに、急いで口の中の物を飲み込んだクラウスも、

「それは宜しゅうございました」

と満足気だ。

ユーナが半分も食べていない脇で、リーゼが、「美味しかったです。ごちそうさまでした!」と、全部平らげていた。

ユーナが食べ終えたところで、クラウスが訊いてくる。

「こちらの店は、いかがでしょうか?」

「うん、良いわね。お願いしたいわ」

ユーナは外向けの言葉でそう答える。

ただ……貴族のご令嬢にソーセージをかぶり付かせる訳にはいかないだろうから、工夫は必要になりそうだ。

何が起ころうとしているのか、気になっているのは、屋台の中の男性と女性の方。

ユーナが直接交渉するのは、立場的によろしくないのため、クラウスが代わりに交渉に当たる。

クラウスが再び屋台に近づいて話し始めると、最初は訝しそうにしていた2人は、顔を引き攣らせた。

「俺たちみたいなのが、貴族の方々相手に店を出すって、大丈夫なんですかい?」

「もっと良い物食べてらっしゃるでしょうに?」

2人の反応は当然と言えば当然。

否定的なことを答える2人だったが、最終的にはクラウスが上手く丸め込んでしまったらしい。

数分の会話で、2人は断ることを諦めたようだった。

「引き受けてくれるとのことです」と、ユーナに報告するクラウス。

「ありがとう、2人とも。無理を言ってしまったと思うけれど、どうぞ、よろしく」

「はい、私どもの作る物でよかったら」

「ありがとう、詳しいことは、このクラウスとやりとりをお願いしますね」

「わかりました」

ということで、一件目を確保。


「次は、こちらです」

と、クラウスに導かれて着いたのは、焼き栗屋だった。

店先に、上の部分が凹みになっている黒い鉄の箱が置かれ、凹みの中に栗があった。それを見ようと顔を近づけるとかなり熱く、

「お嬢様、お気を付けください」

とクラウスに止められてしまう。

どうやら、箱の下の方で火を熾していて、栗を熱しているらしい。


さすがにユーナも栗は食べたことがある。ただ、単純とは言えこんな機械を使って焼いたのではなく、焚き火に放り込んで焼いた物だった。しかも目を離すと、まだ熱いか焚き火に手を突っ込んで盗もうとする奴がいたので、栗を焼くだけでも一苦労だった。

あの頃には、ウドやルーが一緒だったが、彼らは今頃、どうしているだろうか。

ユーナはそんなことを思い出しながら、クラウスが焼き栗を買ってくるのを待った。

「ユナ…お嬢様、栗のむき方はご存知ですか?」

さも、知らないのが当然のような口調でリーゼが訊いてくる。

「さすがにそれくらいは知ってるわよ」

ユーナは焼き栗ひとつ取る。それはすでに殻に割れ目が入っていたので、割れ目を縦にして摘まむようにして持ってぐっと力を入れる。すると殻は綺麗に2つに割れ、中身が簡単に取り出せる。

「お上手ですねぇ」

リーゼは少し感心した様子。

「屋台を屋敷に招こうと言うのだから、これくらいはね」

などと自慢気に言うユーナだが、要は昔取った杵柄でしかない。

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