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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
ユーナとルーとファイラッド
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出会い

 

 ユーナが育った街はファイラッドという都会で、クヴァルティス帝国の南の方にある。夏は暑く、冬も寒いが雪は滅多に降らない。

 この街はディラルド侯爵家のお膝元で、領主であるディラルド侯爵が住んでいる。

 孤児院に収監されるまでのユーナは、イルザという40歳に近いくらいの女性に育てられた。それより前のことをユーナは覚えていない。ユーナの父母は、イルザが言うには彼女の家の近くに住んでいたが、ある時、強盗に襲われて殺されてしまったという。ユーナの父は木工職人、母は機織りなどをして生計を立てていたので、決して羽振りが良かったわけではない。ゆえに強盗が両親を襲った理由は全く不明。ユーナが生き残ったのは、両親が身を挺して彼女を庇ったからに他ならないそうでなければ、ユーナも両親と共に天国に旅立っていただろう。

 そういう説明をされても、幼いユーナには実感が沸かなかった。物心ついた頃にはイルザと共に暮らしていたから、イルザがユーナにとっては唯一の家族だった。イルザが自分を引き取った理由をユーナは知らない。


 イルザは、不思議な人だった。ファイラッドの中でも貧しい方に属する地区に住みながら、身だしなみに可能な限り気をつけていたし、言葉遣いもそんな地区の人間とは思えないほど丁寧だった。強いて例えるなら、大富豪や貴族に仕える者のような口調だった。

 イルザはお針子を仕事にしていた。朝に出かけて夕方に戻ってくる。

 ユーナは、裁縫の練習をしたり、簡単な家事仕事をしたりしながら一日を過ごすことが多かった。

 外に出るとユーナは、だいたい近所の子供たちと遊んでいた。遠くに行くことはイルザに禁じられていた。

 遊ぶ相手の子供たちは男の子も女の子もいた。男の子同士、女の子同士で遊ぶことは稀で、たいてい男女混合で遊んでいた。川遊び、木登り、輪回し、樽乗り、馬跳び、それから虫を捕まえたり、など。

 とても裕福などと言える生活ではなかったが、ユーナは不幸せに感じたことはなかった。

 そんな二人の生活に波風を立てたのが、ウドという名の男の子だった。


 彼とユーナが出会った最初は、6歳の時、ユーナが一人で遠出してみた時のことだ。

 イルザは昼間はいないので、ユーナは思い立って市場に行ってみることにした。

 貧困地区と言っても市場くらいは立つ。ただし、ユーナは買い物をするお金も物々交換するための品物も持っていなかったので、ただぶらぶらするだけだった。しかも背丈がないから、棚の上に乗っている物が食べ物なのか生活用品なのかも判らない。

 それでもユーナは楽しいと思った。人が行き交う喧噪のただ中に身を置くと、なんだか興奮した。

 そんな時。

 「待ちやがれ! この小僧!」

 騒々しい中にあっても異質な声が響いた。

 すると、背の高い男の子が駆けてくる。彼はユーナにぶつかり、ユーナは尻餅をついた。しかし男の子はそのまま逃げていく。

 呆気に取られたユーナが彼を見送っていると、大人の足が傍を走って行った。

 「このガキ、待て! ちくしょう!」とかなんとか叫びながら。

 その声が遠くなった頃、ユーナ一人で起き上がり、服を叩いて土埃を落とす。

 それからしばらく、市場見学をしてから、ユーナは家に帰った。

 その途中で、

 「おい、そこの小っこいの!」

 と、後ろから男の子の声が聞こえた。それが自分のことだとはつゆ知らないユーナは何もなかったかのように歩き続ける。

 すると突然、後から肩をむんずと掴まれた。


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