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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
水と炎と決別と。
621/664

不絶糸2

昨日の分です

「レオンハルト・リッツジェルド、教えられるのは、そなたが既に得ている範囲を超えないかもしれないが、それでも良いか?」

「構わない」

頷いたティケは、話し始めた。

「不絶糸とは、『世界(ムンドゥス)』と、そこに住む生命を結びつけるためのこの世界(ティレリア)の仕組みを指す。ゆえに、ティレリアに存在する生命は必ず不絶糸を持つ。また、ある面では、生命にとって不絶糸は時限装置でもある。異『世界』の魂は、ティレリア由来のエーテルとマテリアルを帯びることでティレリアの生命に加えられる。この場所は、そのための装置である」

「2つ、質問しても良いだろうか?」

「答えられるものなら答えると約束しよう」

「1つ目。不絶糸の仕組みを有するティレリアは、『創造された』ティレリアのことか?」

「そうだ」

「2つ目。不絶糸を断ち切った生命はどうなる?」

「その質問に答えるのは難しいが、おそらく、この世界から切り離されて存在を継続するだろう。……ひとつ、忠告しておく、」

「聞こう」

「『世界』を欺くな。謀ろうとするな。そなたが『世界』を注視するなら、『世界』もそなたを注視することになる」

レオンハルトは、ふう、と息を吐き、

「承知した、心に刻んでおこう」

と答えた。

ティケは笑顔を見せるが、どこか曖昧さを残す表情だった。


レオンハルトとティケの会話は、息が詰まるような緊張感を伴うものだったが、ユーナにしてみればちんぷんかんなので、単に疲れが募っただけようなもの。だが、それでも、見てはいけない深奥を覗いてしまったような、不思議な感覚は覚えている。

というか、ティケの説明も、レオンハルトの質問も、意味も判らなければ重要性も判らない。

そんな自分が、聞いてしまって良かったのか? とさえ思う。

幸いなのは、内容が理解できていないので、聞いていないのと同じようなものだということだろうか。


「お嬢様、どうか発言をお許しください」

急にメグがティケに、申し出た。

黒髪のティケが「許す」と応じると、「ありがとうございます」と答え、メグは話し始める。

「お嬢様は、先ほどのお話を、『リッツジェルドに相応しい』と仰いましたね。ですが、聞いた者の中には『リーズ』も含まれます。これは、是正すべき事態と考えます」

メグの台詞に、ユーナは不穏なものを感じ取る。

聞くのが相応しくないのに、聞いてしまったとしたら、その人のことをどう扱うべきだろう?

その人が生きている限り、状況は変わらないのだとしたら?

「まさかとは思うけど、秘密を知った奴は殺す……とか言わないですよね?」

思わずそんな言葉が口をついて出る。驚いたのはアンナとカール。察しの悪いリーゼを除く2人は、示し合わせたようにユーナの顔を凝視する。

返ってきたのは、

「あはははは」

という笑い。その声に毒はない。つまりティケは、ユーナの心配を笑い飛ばしてくれたことになる、のだが。

「漏洩は避けるべきかと」とメグは食い下がる。

「だったら仕方ない、記憶を消すよ?」

あっさりと告げるティケ。

「そんなことが出来るの? ……ちょっと待って。それって、記憶が全部消えちゃうってこと⁈」

だとしたら、受け入れるのはNein(いいえ)だ。

「んーん」とティケは首を振る。「あたしと会っている間の記憶だけだよ」

「そっか。だったら、仕方ないかな……」

「あっさりしてるね」

ティケは意外そうに言う。

「仕方ないでしょ」

ユーナは色々な意味を含めて同意する。

しかし、それに異を唱えたのはレオンハルト。

「危険はないのだろうね? 記憶を消したことで彼女に何か問題が生じるようなら、俺は断固として反対する」

ユーナを庇うように前に出て、レオンハルトは、きっぱりとそう言い放った。ユーナ本人よりも事態を重く受け止めている様子。なので、

「なんで、あなたが?」

ユーナとしてはそう反応するのは当然だ。

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