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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
水と炎と決別と。
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スピリトゥス・リーニエ

やがて、灯りが点る。

敵がいた場所には、何も残されていなかった。そこれこそ、肉の1片、血の一滴さえも。そこはただの、何も無い空間だった。

がらんとした室内を目にして、ユーナは心の中の空洞を感じた。

第2の生を謳歌したいと言った者も、第2の死を迎えてしまった。

そのことが、ユーナには悲しく、虚しく思えた。


自分も、そうなのか。

魔と人の狭間で、繰り返す生と死。


意味の判らない、そんな言葉が頭に浮かぶ。

「行きましょう」

と室内から出てきてユーナとすれ違ったティケの髪は、黒色をしていた。


そこからさらに廊下を歩き、しばらくして階段が現れる。

それを降りると、たった十数段ですぐに床となった。しかしそこは所謂、中2階と呼ばれる、階段と階段の中継ぎの床面で、くるっとターンすると、右側に次の階段が現れる。このように頻繁に中2階が現れる階段は、現代でこそ普通だが、ユーナの時代の建築技術ではあまり一般的ではない。

そうやってぐるぐると回りながら階段を降りること……何分経ったのか。単調な動作の繰り返しな上、何故か誰も喋らないので、ユーナは何となく気まずさを感じはじめていた。

どこに向かっているのかも気になる。まさか、奈落の底に導かれているわけではないだろうけれど。

もし奈落の底だったとしたら……そこには地上には居ない魔物が住んでいるとか聞いたことがある。

悪魔種と呼ばれる魔物で、頭には角、背中には蝙蝠の皮膜の翼を持ち、蛇のような尻尾を持つ……まだファイラッドに居た頃に、悪いことをすると、悪魔が地の底から這い出してきて連れて行かれてしまうなどと寝物語に脅された記憶が、ユーナにはある。

その時は、神々を裏切った眷族が地下に落とされて封じられたとか教えられたが、最近ツェツィーリエの講義で聞いたところでは、神々自体が存在しないらしいーー少なくとも人間が崇めるべき神格としては存在しないとのことだった。

ということは、存在しない神々を裏切った眷族もまた、存在しないことになり、引いては悪いことをしても連れて行かれることもない。

まあ、だからと言って、悪いことを率先してやるつもりもユーナには無いが。


ユーナがそこまで考えを巡らせたところで、階段を降りきり、横に続く廊下に出た。

空気が澱んでいる。

それから、上から下へと、何かが通り抜けていくような圧迫感。その所為で身体に余計な負荷がかかっているような感覚を覚える。不快ではないが、不思議な感覚。

レオンハルトとアンナ、カールとリーゼも、同様のものを感じているようで、落ち着きがない。

ティケとその眷族は、それもお構いなしに、さらに奥へ進んでいく。

そして現れる扉。

その先が、この遺跡の深奥であり、ここが遺跡となっても維持されている理由。

ユーナは何となく、そう感じ取った。

それくらい、扉の向こうの気配は圧倒的だったのだ。

メグが扉を開ける。

その向こうに見えたのは、無数の細かな光の粒。

その数多の光は、上から下へと、まるで滝の水が流れ落ちるように、しかし、ゆっくりした速度で、落ちていく。他に光源は無く、暗い中に光の粒の滝が放つ光だけで、部屋の中は明るく感じられる。

室内はかなり広いとは言え、部屋なので、当然ながら天井もある。

しかし、この光の粒の滝は、天井付近から突然に現れていた。

床の方はというと、直径で10メートルは遥かに超える穴が、足が竦むほど深く掘られている。

光の粒はその底に落ちていき、溜まることもなく消失しているようだった。

つまりこの光の滝は、まるで枠に嵌められた絵画のように、目に映る。

「大丈夫そうね」

ティケが、光の滝を仰ぎ見ながら呟く。

「流れに大きな変化はありません」

と応えたのはドロテア。

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