異世界の魔物
次は長い廊下が続く。
壁自体が淡く発光しているらしく、暗いことに変わりは無いが、ここではドロテアの灯りがなくとも歩くことが出来た。
「複数の魔力呼応反応はこの先、左側にあります」とドロテア。
その説明は、先ほどドロテアが検知した、異界の生体の位置情報についてのものだ。
「ありがと」
ティケは短く礼を言って、さらに先に進む。その左側にはドアがあった。
今までの話から推測するに、ティケは異界の生体を殲滅するつもりなのだろう。ティケ本人がどれほどの戦闘力があるのか不明だが、まあドロテアもティケも付いているので、返り討ちに遭う心配はないだろう。
問題はユーナ達の方だ。ユーナとレオンハルト、そしてアンナは持力保持者であるとは言え、魔物狩りのノウハウは無い。
カールとリーゼは確かに武力を有するが、魔物相手となると対応しきれないかもしれない。しかもその相手は、異界の生体とか言う、ツェツィーリエから学んだ魔物とはまた別の存在らしいとなれば、ユーナ達では太刀打ちできるとは思えない。
そんな不安にユーナが駆られていると、ティケが、
「ユーナ達は隠れて見ててね」
と見透かしたように言ってくれる。要は戦力外通告な訳だが、ここは素直に従うべきだ。
ティケは勢い良くドアを開け、ドアは部屋の内がに向かって、おどろおどろしい、錆び付いた金属音を上げて開く。
すると中から、むわっとする悪臭が漂ってきた。それから、興奮状態を想像させる息遣い。
だが、ティケの背中越しに見る扉の向こうは、そんなに狭くはなさそう。
カールとリーゼがユーナの前に立ち、守る体勢を取る。
ドロテアが灯りを点すと、浮かび上がったのは、無数の蠢く存在。
鬼のような人間の姿もある。
スライムのような不定形の姿もある。
角と翼を持つ悪魔の姿もある。
しかし多くは、ユーナが知っているこの世界の生物の姿形からは逸脱していた。
枯れ枝を沢山集めて、それがくっつき合い、床から浮かんでいる存在。
黒い点の模様が沢山付いた触手が、絡み合って床をのた打つ存在。
魚類を思わせる頭に、毛深い四つ足の獣の胴体がくっつく存在。
まるでクラゲを思わせるような半透明で、形の定まらない宙に浮いた存在。
その1体1体が、身の毛もよだつ恐怖を抱かせる。ただ異形というだけではない。
絶対的に相容れないと、永遠に理解し得ないと、直感で理解できる何かを、彼らは纏っている。
それがあまりにも異質で、異様で、異常なのだ。
そしてわかり得ないものほど、人間は恐怖し、嫌悪し、忌避する。
そう言った存在がここには、二十数体、部屋の中にひしめいていた。
「ひ」と悲鳴を押し殺すかすれた声が、目前のリーゼから漏れ聞こえる。武に優れるとは言え、年の若い娘には、キツい光景だろう。それでも悲鳴を上げずに留まったのは立派だった。
若い娘、という意味ではユーナも同様なのだが、ユーナは精神的にはあまり堪えてはいない。だからといって、目の前の異形に近づいて触るなんてことが出来るわけではないが。
なんでこんなに度胸というか、精神耐性が高いのか、ユーナ自身、頭を傾げるくらいなのだが、この時のユーナにはその理由を思いつくことはできない。もちろん、魂の問題に関わっていることは間違いない。
その意味での耐性はアンナにはないはずたが、彼女もそれほど動揺しているようには見えなかった。内心では穏やかでない可能性はあるけれども。
レオンハルトはーー。
恐れるでもなく、怯えるでもなく。
むしろ、どこか楽しげにすら見える。
彼の反応はユーナともアンナとも違って、何かをしきりに呟いていた。興奮のあまり思考が声に漏れているのだろうが、何を言っているのかはユーナには聞き取れない。たとえ聞こえていたとしても、言っていることの半分も理解は及ばなかっただろう。
呟いているのは、こんな内容だ。
「異界の生体とは聞いていたが、なるほど確かに、これは『世界』の論理からはかはなりズレている。『異界の存在』というのも信憑性は高そうだ。ということは、異なる『世界』が存在する証左ともなる……。だったら、こいつらはどのように存在を許されている? 不絶糸による管理が、この者達にも? つまり異界にも不絶糸があ存在するということか? ……いや、違うな。『世界』に最適化されたと考えるべき……」
そんなレオンハルトは置いておいて。




