非生物の魔物
微妙な雰囲気になったのは、ユーナ達のほうだ。
というのも、メグが鬼達を『同族』と呼んだのを聞いてしまったから。
それはつまり、メグもまた鬼族ということになる。
それを察したカールと、察していないがカールに指示されたリーゼは、剣の柄に手を置き、ユーナを隠すように前に出る。
レオンハルトも警戒している様子。
そんな中で、態度が変わらなかったのはユーナとアンナだった。
ついさっきでば出会ったかりだが、彼女、メガロシュネはユーナ達に敵対的行動も、憎悪の籠もる発言もしていない。むしろ逆で、優しく、気遣いが感じられる。
これは鬼の持つ特性とはほど遠い。
鬼だったとしても、メグは信用できる。
ユーナの理解はそんなと感じで、確かめてこそ居ないが、その考えはアンナも同じようだった。
「メガロシュネ……さん、あなたは鬼族なのか?」
レオンハルトの問いはメグ本人に向けたものだったが、
「そうだよ、言ってなかったっけ?」
答えたのはティケ。
それに続けてメグが答える。
「お察しの通りですが、私は人間の敵ではございません。お嬢様に敵対するというならその限りではございませんが、あなた方はそんなことにはなりませんでしょう? と言うことでもう一度、正式に名乗らせていただきましょう。皆様、私は、お嬢様の忠実なる僕、メガロシュネ・モノコルニスでございます」
その名乗りがどういう意味を持つのか判らず、「あ、はい、よろしくお願いします」としか応えられないユーナ。
レオンハルトは、「は……」と、ため息のような、呆れが思わず声に出たような声を漏らし、
「……こんな形で遭うなんてね」
と呟き、その後、やっと気付いたように、
「失敬した。こちらこそよろしく」
と名乗りを受け入れる。
対するメグは、よく判らないがなんだか偉そうに、えっへんとばかりに胸を張り、
「1角は、今となっては私のみでございますから」
と自慢気に宣言する。
ユーナとしては、なんだかなぁ……という心境である。
ここでようやく、カールとリーゼは警戒を解いた。カールも言いたいことはあるようだが、主人の手前、遠慮している。
冷静だったのはアンナだけ。
「では、ドロテアさんに確認したいのですが、」とあんなは言葉を続ける。
「推察する限り、ドロテアさんは、械族ということですか?」
ドロテアは、例えるならバランスディスクに乗っているかのように、くるりと、機械的に向きを変えて、アンナの問いに答える。
ちなみに、この時のユーナは械族と呼ばれる魔物種を知らなかったので、後で聞いてみよう位のつもりで話を聞いていた。
「アンネッテ・コーウェル嬢の質問に解答します。ドロテア・オスティアリアは、械族と鬼族のハイブリッドです」
「械族と鬼族を親に持つと言うことでしょうか?」
珍しくアンナの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「いいえ、ドロテア・オスティアリアは、異種交配の産物ではなく、人為的につくり出された存在です」
自分のことを、まるで他人事のように説明するドロテア。
「人間が、あなたを作った、ということですか?」
アンナにしては歯切れが悪い。言葉としては理解できるが、具体的には想像できない、そんな感じだ。
ドロテアはさらに、
「ドロテア・オスティアリアの肉体と精神は、械族と鬼族が混じっています。形態は鬼族のものですが、意識は械族と認識しています」
と教えてくれる。
「械族は伝承にのみ名を残す魔族と、聞いている。その姿形は生き物のようには見えない、とも」
「械族は絶えてはいません。まだ、稼働する同族のビーコンを検知できますので。それはそうと、稼動を止めた械族であれば、この近くでも見ることは出来ます」
「ほう?」
「鬼族の遺体が散乱する野原に、混じっている、黒い立方体がそれです」
「え?」と驚いたのはユーナ。あれが生き物とは思っていなかったからだ。
「なるほど、伝承通り、本来は生物とは思えない姿形なのだな」と納得したのはレオンハルト。
レオンハルトとアンナはそれぞれがそのまま、考え事をしていたが、
「話は終わった? もう、先行くよ」
ティケの一言で引き戻される。ティケがそのまま、鬼が現れた出入口の方へ歩き出すので、つられて眷族の2人も歩き出し、ユーナもそれに従った。




