ユーナ達、〝カッシート〟から許可を得る
お試しで今日の24時頃に続きをアップしてみます。
「ヴァールガッセンの亡霊」はもうすぐ終わりですが、シリーズは続きます。
「ランティエ、さん?」
フラグランティアの後ろから声がかかる。
振り向けば、そこにはアンナがぽつんと立っていた。
「なにか?」
「今のは本当のこと、なんですね。ランティエさんが好戦性精霊だということは」
「そうだ。それを知って、お前はどうするつもりだ?」
「答える前に聞かせてください。あなたがクリスさんに近づいた理由はなんですか?」
「目的はクリスティーネではない。ユナマリア、お前の友人だ」
「ユーナさんに危害を加える訳では無いのですよね?」
「その通りだ」
「だとしたら、わたしは何もしません。ランティエさんのことも秘密にします」
「お前の言葉は信頼に値する。それはこれまで共に行動したことで判っている。ゆえにお前の言葉を信じよう」
「ありがとうございます」
不意にランティエは相貌を崩す。それまでの非人間的態度から一転して、にっこりと笑顔になった。
「では、ユーナさんのところに行ってちょうだい。あの子たちは暖炉の向こうにいるはずだから。……ニキアさんはどうしたの?」
「彼女はトマスさんと一緒に村人の所にいます」
「村人の方はどうなったの?」
「トマスさんさんが説得してくれたので、今は落ち着いています」
「では、私は中庭の方に向かいます。代わりにトマスとニキアさんを地下に向かわせます。少し待っていて」
「判りました」
アンナはニキアとトマスが来るのを待ってから、館の中に向かった。
「〝カッシート〟様、こちらがクリスティーネ・クライル=ヴァールガッセンです」
ユーナはそう言ってクリスを紹介する。
コンラッドが放り投げた指輪を探し終え、ユーナとクリスは白い幽体との交渉に移っていた。
『では、お前が傍流か』
「傍流……ではないと思います。わたしの家はもともとはクライルという商家です。叙爵されるにあたって、ヴァールガッセンの姓を引き継いだだけです」
『血のつながりは無い、ということか』
はい、とクリスは頷く。
『ヴァールガッセンの血筋は絶えたのか……。なんと言うことだ』
〝カッシート〟は手で額を押さえ、苦悶の声を上げた。
「いいえ、血筋は残されていますよ」
ユーナがそう言ったちょうどその時、ニキアとアンナ、それに二人に付きそわれたトマスが姿を現した。
「ちょうど良かった。〝カッシート〟様、こちらの男性がヴァールガッセンの末裔です」
トマスは目前の白い幽体に驚きを隠せずにいた。
「トマスさん、正式な名乗りを」
ユーナが促すと、トマスは頷いた。
「お初にお目にかかります、我が名は『トマス・ヴァールガッセン』、あなた様の弟ラルスの末裔です」
『では、証を見せるが良い』
「申し訳ございません、手元にありません」
『なぜ指輪を持っていないのだ?』
「盗まれてしまったのです。あのコンラッドという男に」
『あの偽司祭か』
「はい」
ユーナが指輪をトマスに渡す。
『良し。ヴァールガッセンの英知の全てを、その末裔トマス、お前に引き継ごう。…点ようやくこの時が来た』
〝カッシート〟は満足気だった。しかし、トマスがそれに水を差す。
「お待ちください、〝カッシート〟様。」
『どうした、不服か?』
トマスはいいえ、と否定してから続ける。
「わたしと共に継承をお許し頂きたい人物がいるのです」
『クリスティーネか』
「そうです。わたしは確かにヴァールガッセンの者。ですが200年の間に魔術知識はほとんど失われ、今では石像を動かすための呪文が判る程度です。それに比べ、こちらの新たなヴァールガッセン家のクリスティーネ様は術士を目指して学館に通っておられる。遺産を活かすことができるのは、この方を置いて他にはいないでしょう」
『なるほどな』
「トマスさんが学館に通うというのは、どうでしょう?」とクリス。しかし、トマスは首を振る。
「俺は術士になるつもりはないんだ。俺はこのクリフト村を守る義務がある。この村を離れる訳にはいかない」
「そうですか」
クリスは少し残念そう。
『判った。トマスよ、お前の言う通りにしよう。新たなヴァールガッセンを名乗るクリスティーネよ、お前にも英知を継がせよう』
「ありがとうございます」
クリスは素直に謝意を示す。
『また、ユナマリア、アンネッテ、ニキアよ、トマスとクリスティーネが許可する限りにおいて、利用を許す』
「え? いいの?」
即座にニキアが反応する。遺産を金目のものか何かと誤解している節がある。
ユーナがニキアの頭をばしっと叩いた。
「ったい」
それ程強く叩いた訳では無いが、ニキアは頭を抱えた。
『お前たちは水晶術を心得ているはずだ。水晶を持っているのだからな。禁術に関わりを持つ者なら、役に立つだろう』
「よくわかんないけど、とりあえず判った」とニキア。
『では、そなたらの前途が洋々たるものであることを祈る』
そう言うと〝カッシート〟はかき消えた。発光さるものが無くなり、辺りは暗闇に包まれる。
鍵が外れたような音がして、金属が軋む音がした。
鉄の壁がゆっくりとこちら側に開いていく。
微かに、覚えのある匂いが漂ってくる。それから想起されるイメージはあまり良いものではない。
ユーナがなかなか思い出せないでいる隣で、アンナは興奮気味だった。
「でも、ランティエさんと村の人、大丈夫かな?」
中庭で起こっているはずの騒動が気にかかる。
「それは問題ありません。わたしがみんなを説得して家に帰るように命じておきましたので」とトマス。
階段の方から明かりが近づいてきた。
「どう? 大丈夫?」
「あ、ランティエさん」とクリス。ランティエはカンテラを持っていた。
「中庭の方はさが落ち着いたから、私も来てみたの」
ちょうど明かりが無くて困っていたところだったので助かった。




