ユーナvsフレブス・クレール(結社の行き着く先)2
「初めまして、フレブス・クレール。1つ訂正しておくけれど、あたしはフルヴィア・リビディノーサではないわ。その魂を受け継いではいるけれど」
「であるならば、あなた様をフルヴィア様とお呼びすることに何の問題もありませんね」
「問題あるわよ」
「それはそうと、監視官として、わたしを『炎聖』とお呼びいただけないのは、教皇がなにかいたしましたか?」
「そうね。教皇猊下はあなたを資格剥奪の上、破門と処したわよ。あたしが立会人だから、間違いはないわ」
ユーナがそう言い終えたのを待っていたかのように、ユーナの視界の左側で、ほんの2、3秒間だけ、炎柱が上がる。
フラグランティアの技だ。そして彼女が動いたと言うことは、暗闇に紛れて敵が接近してきていると言うことだ。無論、フラグランティアが返り討ちにしている訳だが。
「話の途中なのに、行儀がなってないわよ。『元』とは言え聖人だったのでしょう?」
「ふは、はははは」
フレブスは突然笑い出す。それと同時に炎柱がまた1つ。
「聖人の称号が何ほどの物だというのですか? 所詮は人間が決め、人間が続けるくだらない取り決めの一つに過ぎない」
「その権威を振りかざして思い通りにしてきたのはどこの誰なの、と問いたいところだけど? 何かしらの価値は認めていたからその権威を得たのでしょう? それをそんな風に言い捨てるのは頂けないわね」
フレブスは答えない。答える価値もないと思っているのか。それとも彼にとっては言い返せないくらいのせいの正論だったのか。
ユーナとしてはただの牽制のつもりだったのだが。
ついでにもう一つ、言っておくことにする。こっちの方が、結社の人間には効果的だろう、たぶん。
「ついでに言うけど、あなたの結社だって、人間が決めて、守ってる取り決めに過ぎないわよね?」
「……違う。我らカムネリア秘密結社とはそのような安いものではない!」
「変わらないと思うわ。だってあなたも、人間だもの」
「……」
ここで少し間があったのは、フレブスが怒りを抑えるのに時間を要したからだろう。ユーナとしては煽ったつもりだったが、フレブスは乗ってこなかったことになる。その意味では、頭の回る男のようだ。
「なるほど、人ならざるお方だからこそのお言葉ですな。しかし人に与するあなたが、そのような超越した態度はとるべきではないと思いますよ」
「……悪いけど、ちょっと言っていることが判らないわね」
フレブスが嫌味を言っていることは判るが、ユーナは本当に、彼の言葉の真意を理解できなかった。だから、ユーナの言葉は別にフレブスの感情を煽ったつもりは全くなかった。結果として彼が怒ったのは、たまたまそうなっただけである。
フレブスは突然、「は、はははは」と怒りに任せた笑い声を上げる。
「良いでしょう、あなたが人の側に付くというなら、我々も同じ物を用意するだけだ。……ペトルムよ、指示の通りに殺せ!」
フレブスがいる辺りの灯りが、突然消え、聖堂の中はさらに暗くなる。
ユーナが身構えていると、いきなり左腕を引っ張られ、体勢を崩しながら横に飛ぶ。
やったのはフラグランティア。
「何を……」とユーナが言い掛けたとき、ユーナが元いた場所の床石が砕けながら盛り上がり、バンと音を立てて飛び散った。そこユーナが居続けていたら、下半身を中心に大怪我を負っていたところ。そうなれば立っていられず、床に倒れたところを次の一撃で確実に命を奪われる。
こんな真似、なかなか地味な戦法だなと思うが、鬼族は選択しないやり方だ。というよりそれ以前に鬼族にはできないし、そもそもしない。
そう、これをやるとすれば、それは、人間を除けば、自然と決まってきてしまう。
その答を、フラグランティアが教えてくれる。
「敵は好戦性精霊。印の属性は土、製造番号はΤ4965」
「えーと、それって?」
「神代に存在した番号ではありません。つまり、現代において製造された個体ということ」
「は?」
と声を発してユーナは絶句する。
現代において製造されたーー。
ユーナには『製造された』という意味が分からない。
精霊って、造られるものなの? というか、造れるものなの? 誰が造るの?
その辺は全く分からないが、とりあえず理解できるのは、敵の土の精霊はフラグランティア達が昔から知る仲間ではないということだ。




