ゼロティピアvsハインリヒ・ノイマン(ゼロティピアの思い)
すみません、ここのところ体調を崩しておりまして、定期的に投稿できないかもしれません。
ご了承ください。
前回水曜分はスキップとさせてください。
ハインリヒ・ノイマン。
確か、ユナマリア様にカリンとリディアを引き渡すよう迫った聖女認定官だったか。
『ハインリヒ・ノイマン』として会った覚えはないが、ユナマリア様から聞いたその容貌と、連れていた不審な男の様子からして、ゼロティピアが知っている相手かもしれなかった。
というのもゼロティピアは、以前、カムネリア秘密結社に属していたことがあるからである。
いや、ゼロティピアとしては属した覚えはなく、手を貸してあげていたのだが。その頃、結社員は決してゼロティピアに対して礼を失したことは無かったが、表情や態度には蔑みが見え隠れしており、気持ちの良いものではなかった。
それでも手を貸したのは、彼らが『神代の再来を目指す』という理想を掲げていたからだ。
まあ、それもユーナとフラグランティアに出会うまでの話。
ハインリヒは連れていた男のことを、ヨハネスと呼んでいたようだが……偽名で間違いないだろう。
フードで顔を隠していたというその奥には、角が生えていたのか、牙が生えていたのか、獣耳だったのか。
違う名前の時にも、フードの下は見えなかったので確かなところは判らないが、まあ、使役されている魔物には違いない。
ゼロティピアは、そう結論付けている。
教皇館の屋根の上で、敵の行動を監視しているゼロティピア。
アンナとニキアが戻るまで教皇を守れ、との指示だったが。
「別に、全滅させてしまっても構わないですわよね」
拡大解釈と言えばそれまでだが、ゼロティピアはそのつもりだった。ここに来てからと言うもの、敵側の使役魔物を葬るのはもっぱらフラグランティアが担当していたので、好戦性精霊としては少々、鬱憤がたまっていたのだ。
敵は数は多いが、個体ごとに見れば、それほど強い個体はいない。
であれば、自分1人でもどうにでもなる。
ゼロティピアはそう判断していたし、そこに強者の驕りは無かった。
「教皇館には一匹たりとも近づけさせません」
ゼロティピアの姿が、屋根の上から消える。
そして現れたのは、教皇館に迫っていた鬼族、獣人族などから構成される集団の前だった。
突如、姿を見せた女性に警戒して、使役魔物達は立ち止まる。
そこに、ゼロティピアが声を掛けた。
「居るのは判っていますわよ、今はハインリヒ・ノイマンと名乗っているようね、タウルス。前に出てきてくれますかしら?」
すぐに魔物の集団が2つに別れて道が出来、そこから人間が現れる。
「その名前は既に捨てたのですがね、ゼロティピア様?」
現れたのは、ユーナが面会したハインリヒで間違いなかった。ただし、その顔に現れる表情は、悪意と憎悪にみちており、とても聖職者の顔には見えない。
「このような形で見えるとは、裏切りの精霊には相応しい登場ですな!」
「裏切る? まあ、良いですけれど。その言葉は、『あなた達が、あなた達の理想に対する態度』について言うのが相応しいと思うわね」
「旧態依然とした理想に縛られるのは、同じ旧態依然の存在だけでしょうよ」
つまり、ゼロティピアが神代の存在であり、その時代の考え方に囚われた存在だと揶揄しているわけだが、その程度の嫌味で感情を動かすゼロティピアではない。むしろ、胸のつかえのようなのが取れた思いだった。
「そう。良かったわ。あなたを処分することに躊躇わずにすみそうね」
「はははは、確かにあなたは強い。だが、これほど多くの魔物に抗じきれますかね? 知らないのでしょうが、この者達は『第1世代』。つまり、いつもの『神代の末裔』ではないと言うことです」
旧態をきらいながら、旧態に頼っているという矛盾に彼が気付くことはないのだろう。ゼロティピアはわざわざそれを指摘してやるつもりもなかった。
「わたくしにとっては何も変わらないわよ。ただ殺し、ただ奪うだけ。これまでも、これからもね」
そう言ってゼロティピアは、はっとする。
これまで、人間っほい思考をするようになったと、自分のことを不安に思っていたが。
何のことはない。
自分の本質は、変わっていない。
敵を求め敵を屠ることが、本能のような自分の使命。これを失わない限りは、自分は自分なのだと。
そう思い至ったのだ。
「何を、笑っているのですか?」
不満そうに訊いてくるハインリヒ。侮られたと思っているのだろう。
しかし、ゼロティピアにとっては、今の自分の心情を説明してやる必要など無い。
「そろそろ良いかしら?」
「もちろんです」




