合流(アンナ、ニキアとカールたち)2
昨日投稿予定分です。
「一緒に来てもらいましょう」
カリンとリディアを連れていれば、それだけで敵の聖騎士達が群がってくる可能性が高い。つまり、教皇館に向かうために、かなりの数の敵の中を掻い潜って行く必要がある。
だが逆に考えて、2人の少女をここに置いていくというのも現実的ではない。
「それもユーナの判断ですか?」
「そうです」
「分かりました、準備します。しばし、1階の守りをお願いしても?」
「任せて!」
とニキアが胸を叩いて応じる。
「では、後ほど」
と言い置いて、カールはアンナ達の背後の階段を登り、姿を消した。
さて、残されたのは、アンナとニキアは、その階段を守り、聖騎士達を阻止する形になる。
そして、3人の聖騎士達。彼らは館内に侵入していたので穴に落ちずにすんだのだろう。
「じゃあ、あたしが相手するってことで」
ちろりと舌舐めずりして、ニキアは、カタナと呼ぶ反りの入った片刃剣を鞘から抜く。
「いえ、ここは、『わたし達』とさせてください」とアンナ。
アンナの台詞に驚いて、「え?」と小さく言ったニキアだったが、すぐに気持ちを切り替え、
「へえ。そう言うことなら、一緒にやろうか」
「はい!」
ちなみに、対峙している聖騎士達は、かなり柄が悪い部類だったらしい。それこそ、どうして聖騎士に任じられたのか不思議なほどに。
「ベッドの相手にもならない小娘どもが! そこをどけ!」
「聖騎士にあるまじき下品さですね……」と呆れるアンナ。
「相手になら、ここでなってやるよ!」
聖騎士の言葉の真意が理解できていないニキア。しかし馬鹿にされたことはよーく判っているようで、素早く振り上げた片刃剣を振り下ろす。それに対し、その聖騎士はほぼ何の反応も示せなかった。
次いで、ごとりと床に落ちる兜。それから胸部鎧。
露わになり、蝋燭の光に照らし出されたのは、髭だらけの顔。目は驚愕に見開いているが、宿る光は鈍く、下卑た雰囲気を感じさせる。
清廉潔白が鎧を着ているような聖騎士には、とても似つかわしくない容姿。
しかし、言葉だけは威勢の良かったこの聖騎士は、床にへたり込み、ぶるぶると震え出した。戦意喪失したのは確認するまでもない。失禁していないが幸いだったと言える。
「えーと、あんた達はどうする?」
残る聖騎士達も同類かと思い、『逃げるならどうぞ』と言う意味を込めて、ニキアが尋ねる。
それが、プライドを傷つけたのだろう、聖騎士の1人が、
「舐めるな!」
と叫び、早い仕草で剣を抜き放つ。その動きは鍛錬を積んでいる者の動きだ。どうやら、へたり込んだ1人以外は、ちゃんと騎士の矜持があるようだ。と、思ったのだが……。
剣を抜いた聖騎士は、そのまま一気に距離を詰める、アンナの方へ向かって。
アンナの方が与しやすいと判断しての行動だった。しかし、これはある意味、さらに不幸の選択をしたと言える。
アンナは手にした呪杖を横にして構え、そのまま先端を迫り来る聖騎士の胸鎧にぶつけた。動きはユーナの『ゼロ距離外向式点結界』と同じ。もちろん、その攻撃自体にそれほどの威力はない。
しかし、アンナが呪杖に込めていたのは、『点結界』ではなく『持力』だった。
めきゃっ。
金属がひしゃげる音と同時に、
「ぐぼあはっ!」
胸を圧迫されて無理矢理空気をはき出したような叫び声。
「あ゛あ゛……っ!」
聖騎士の胸鎧は、真ん中がべこりと凹んでいた。その所為で胸が圧迫されて、思うように息が出来なくなっているのだ。
兜の下の顔はおそらう赤くなっており、やがて紫になり、このまま放置すれば死に至ることになる。
さすがにそれはよろしくないと思っているアンナが、ニキアに向かってこくりと頷く。
その意を察したニキアは、手にする片刃剣で、その兜と鎧を斬った。
急に呼吸が解放された聖騎士は、そのまま気絶して倒れた。
先に戦意喪失していた柄の悪い聖騎士は、これ見て、
「あり得ねぇ、あり得ねぇ!」
と叫びながら逃亡する。抜けた腰はなっていたようだ。
ニキアはそれを追撃しなかった。いま必要なのは、敵の殲滅ではなく、この場所の死守である、
それが判るくらいにはニキアも成長していたのである。




