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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
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クリュオvsゲオルギウス・フォン・オルティクス(クリュオの不戦勝)

ゼロティピアはユーナが指示を出すよりも先に、

「フレブス・クレールは主座大聖堂に立て籠もる構えです。ハインリヒ・ノイマンは使役する者共と共にこちらに向かっているようです」

どうなさいますか? と問いたげな視線で上目遣いにゼロティピアは、ユーナを見る。何だかその表情が、『私も暴れたい』と意思表示しているように見えてしまい、ユーナはため息を吐く。

どうも好戦性精霊スピリトゥス・ベリゲルという存在は、戦わないでは居ても立っても居られない存在らしい。いやまあ、名前からして戦いを好むのは宿命なのかも知れない。ユーナはそんな風に思う。実際、どれほど敵が弱かろうと戦いがそこに有るなら全力で当たるよう本能レベルで定義されているのだから、これはもう仕方がない。

と、言う訳なので。

「アンナとニキアは、一緒にフロリアヌス助祭とカールとオリヴィエを探してここに連れてきて欲しい。その上で教皇を守って」

「判った」

「ゼロティピアは、アンナとニキアが戻るまで教皇猊下を守りつつ、ハインリヒとその使役する者達の相手をして。ハインリヒは生け捕るように」

「畏まりました」

と答えるや、ゼロティピアの姿が消える。

「フラグランティアは、あたしと一緒に主座大聖堂のフレブスを、ゲオルギウス・フォン・オルティクスはクリュオに任せます。2人とも生かして捕らえてきて」

「美味しいところ持ってかれてる気もするけど、ま、いいか」

ちょっと不服そうな様子を見せるニキアだが、それを押し通すつもりはないようだ。ニキアとしては、守りよりも攻めの方が性に合ってるのだろう。その意味では、ニキアはフラグランティア達に似ている。好戦的という意味において。

「では、フラグランティア、行きましょうか」

「御意」

そういう訳で、それぞれが、それぞれの任務のために動き出す。


(作者註:クリュオは基本無口なので、台詞は少ないです)

ターゲットを生かしたまま捕らえるのは、それほど造作ない作業だろう。

クリュオはそう理解していたし、その事に間違いは無い。

だが、問題は、ターゲットを生かす為に、それを守ろうとする人間達は危険に晒される、もっと言えば、死の憂き目に合うということだ。主にクリュオによって。

でも。

その一方で、クリュオの主人は殺生を嫌う。特に罪のない死は心を痛めることだろう。

ゆえに、無駄と思える殺人は、為してはならない。ちゃんと、その死には意味が有ると主人に納得してもらえる死を与えなければならない。

(骨が折れる。かも。)

しかし、実行しないという選択肢もクリュオには無かった。

主人の命令と、その命令に隠れている思いを汲み取る。

『そこまでできてこそ、中位階なのだからね?』

ゼロティピアが以前講釈してくれた言葉をクリュオは思いだす。

それを鵜呑みにする訳では無いが、その考え方は確かに必要なのだろう。

さて、ゼロティピアがユーナに対して行った報告の中には、クリュオが捕らえるべき人間の居場所は含まれていなかったが、精霊同士の通信を通して、既に情報は得ている。

それによると、どうやらゲオルギウス・フォン・オルティクスという、人生という存在期間の最後の方に位置する人間は、自分の部屋に籠もっているようだ。

場所は司教館の最上階。

ゼロティピアには劣るものの、クリュオも有する索敵を行ってみると、オルティクスのいる部屋の周囲にも人間が存在しており、おそらくは護衛と思われた。

(まずは、周囲の敵勢力排除から)

クリュオは司教館につくと、護衛に付いている聖騎士達を、誰何することも無く、文字通り問答無用に無力化していった。

クリュオが使っているのは概念魔術の〈停止〉。これを時間条件付きで励起すれば、一時的に敵の行動を妨害できる。

聖騎士達の多くは、何が起こったのかも、何故そうなったのかも判らないままに手足の動きを封じられ、守っていた場所で横たわるしかなかった。

(でも、やりすぎると死ぬから、加減必要)

階段を上がるのが億劫に思えたクリュオは、館の壁に自分が履く靴の裏をくっつけると、完全に重力に逆らって壁を登り始める。しかも窓を避けることもしない。窓ガラスの上を歩いても、ガラスは割れることなくクリュオを支えた。

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