逆襲2
「クリス、突入前にあたしが連中に警告をするから、連中が話を聞かなかったら『切り裂きの風』をお願い」
「はい」
「そのあとにニキアを先頭に突入、ただし、無用な殺生は禁じます」
「O.K.!」
「アンナは警戒と支援を」
「了解」
「クリュオは全員を守って」
「判りました」
「では、行きます」
ユーナが、駆け出す。
みなが、それに続いた。
教皇館を包囲している聖騎士達から、槍が届かない位の距離でユーナは止まり、声を大きくして宣告する。
「クヴァルティス帝国皇帝の名の下に、監視官であるユナマリア・リーズがあなた達に命じます。道を空けなさい」
すると、聖騎士達の中から、隊長と思われる槍持ちの騎士が、数歩前に出る。
「我々は『炎聖』ペトロニウス様のご命令により行動しております。そのご命令に逆らう訳には参りません」
「それは、皇帝陛下の権威に対する反逆と理解します。つまり命を賭して抗う、と理解しますが、それでよろしいか」
「そ、それは……」
ユーナの言葉が厳しいからか、さすがに槍持ちの騎士は躊躇する。しかし、ユーナは容赦しない。
「無返答は、肯定とみなします。では、命のやり取りをしましょうか」
ユーナは不敵に笑みを浮かべてみせる。暗い中で昊が見えているかは定かではないが、余裕の雰囲気は感じ取ってくれただろう。
もちろん、全員の命を奪うつもりなど全くない。できれば、無殺生ですませたいくらいだ。
聖騎士達の中には、たった6人のユーナ達に何ができるのか、と高を括った者もいただろう。しかし、その余裕も一瞬で吹き飛ぶことになる。
ユーナが右手を肩の高さまで上げたのを合図に、風切り音が聞こえたと思うと、突風が後方からユーナの両側をかすめて前方に飛んでいく。
クリスの〈切り裂きの風〉だが、威力は弱めているのか、2つの風は、槍持ちの騎士を直撃すると、切り刻むのではなく、後方に吹っ飛ばし、槍持ちの騎士の身体は、後ろに居た聖騎士達数人に直撃する。
聖騎士達全員に動揺が走るのが、目に見えて判った。
そこにーー。
鞘から片刃剣を抜き放ったニキアが聖騎士達に迫り、彼らが茫然としている間に、1人を切り下ろし、2人目を、擦り上げた返しで、3人目を再び切り下ろしで斬る。
少し間を置いて、3人の被る兜が、真ん中からまっ二つに割れ、ごとりと地面に落ちた。
「は?」
ユーナは、思わず声が出たが、その実、呆気にとられていた。
なぜ、そうなるのか判らない。普通、鉄の兜は鉄の剣では斬れないし、2つに割れるなんてこともないはずだろう。
それとも、これも何かの魔術の類なのか。ニキアは東方の剣術を学んでいると言うことだし……いや、とユーナは思考を止める。
今は、そんなことに考えを巡らせている状況ではない。むしろ理由はどうあれ、敵を無力化できるなら、それを使わない手はない。だからツッコミは辞めておくことにする。
実際、顔が露わになった3人の騎士は、度肝を抜かれて腰が抜けたのか、そのままへたり込んでいた。
「兜斬ってもつまんないんだよな」
それに対して不服そうに呟くニキア。
「ニキア、それって……」
つまり、人間を斬りたいと言いたいのか……。
不安に駆られたユーナが、ニキアを見ると、それに気付いたニキアがあっけらかんと言う。
「あ、だいじょぶ、判ってる。言いつけは守るから」
ニキアの発言にウラはないようで、その証拠に、ニキアはその後も、聖騎士達の兜や鎧だけを斬って敵を無効化していく。その様は、クヴァルティスの片手剣術とは違い、(がさつなニキアにはそぐわない表現だが)流麗で洗練されているようにユーナには見えた。夜の暗い中で、時折、きら、きらと剣身が光る様子はまるで光を纏う蝶がひらひらと舞うようにも思える。
次に前に出たのは、クリスだった。




