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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
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急襲4

包囲を突破してすぐに、フラグランティアとクリュオが合流する。

ユーナは、フラグランティアが1人の聖騎士を背負っているのに気付いた。

背負っている、というよりは、まるでサラリーマンが背広を脱いで、肩に引っかけるようにして持つ要領だ。

背負われている聖騎士の方は、鎧の首の部分を掴まれて居るだけなので、フラグランティアが走っていると、かなり揺れている。背負うフラグランティアは、平然としているが、背負っている聖騎士はかなり大変な状態のはず。それとも、気絶しているのか。兜を被ったままなので、そこまでは判らない。

「それが指揮官?」

ユーナが指揮官の捕縛を指示したので、その通り捕まえてきたのだろう。

「そのようです。名前は、クラール・ゴッテスヴィレンと名乗っていました」

「……死んでないよね?」

「気絶させただけです」

「……なら、いいけど」

「聖騎士達に動きがあるようです。四方に分かれていた隊が合流し、こちらに動き始めました」とクリュオが淡々と報告してくれる。

「立て直しが早いのは、さすがに騎士と言うことでしょうか」

「聖堂教会本部の方は、聖騎士は待ち構えているでしょうか?」とアンナ。

「どうなの?」とユーナが聞くと、答えたのはクリュオ。

「特に戦闘の態勢は見られません」

「ではこのまま、聖堂教会の中に入り、敵を掃討しましょう」

アンナの提言が、物騒な物言いになっているのは、気のせいではあるまい。

だがまあ、ユーナも考えは同じだ。


やがて、聖堂教会本部の建物に辿り着く。

あまり趣味が良いとは言えないきらきらな外装は、星空の光でも十分に目立つ。

行きと同じように帰りも、フラグランティアとクリュオにお姫様抱っこしてもらって中に入るつもりだったのだが、そう上手く事は運ばなかった。突然、聖騎士に声を掛けられたのだ。

「ユナマリア・リーズ様と、配下の皆様ですね? お待ちしておりました、こちらへ」

その聖騎士は兜を被っておらず、暗いので細かい表情は見えないが、少なくとも、その声と態度に敵対心は感じない。

ユーナがフラグランティアをちらりと見れば、彼女は無言でうなずきを返す。

なるほど、つまりフラグランティアも味方と判断したから、こうして声を掛けられているのだろう。

そうでなければ、他でも無いフラグランティア自身の手で、彼は排除されていたはずだから。

ユーナがすぐに返事なかったのを躊躇と解釈した聖騎士は、

「わたしは教皇猊下直属の者で、あなた様を襲おうとした者共とは違います」

と、安心するよう情報をくれる。

「では、わたくし達を襲おうとした騎士達は、『保守派』と理解して良いかしら?」

今度は聖騎士の方が躊躇する。

「はい、とお答えするのはいささか語弊がございます。と言うのも、我々聖騎士は指示を受ければそれに応じる立場ですので……」

つまり聖騎士は、例えば、『保守派』の枢機卿から命令が出されれば、自分は『保守派』でなくとも従わざるを得ない立場にある、ということだ。

その意味では、目前の聖騎士も、教皇の指示で動いているが、本人の主張も同じとは限らないことになるのだが。

まあ、彼の理論に寄れば、教皇の指示で動いている間は、彼が裏切ることは無いということになるので、この聖騎士が即座に脅威になることはないだろう。

「なるほど、あなた方の事情は理解しました。では、教皇猊下の所へ参りましょうか」

「承りました。なお、わたし自身は『改革派』に属しております」

つまり、教皇の派閥なので信用してもらって問題はない、という宣言になる。ーー彼が嘘を吐いているのでなければ。

「判りました」

「ところで、お聞きしても宜しいですか?」と聖騎士は、フラグランティアが背負う聖騎士に目を移す。

「彼は、どうして……?」

「我々を襲おうとした聖騎士達の司令官です。証人として連れてきましたが、何か問題が?」

などと、しれっと答えているユーナだが、本来なら問題は大有りだ。

敵対行動に出たとは言え、聖堂教会に属する人間に対する扱いとしては、ぞんざいに過ぎるからだ。まして司令官ともなれば、聖騎士の中でもそれなりに地位が高いはず。

それをまるてボロ雑巾のように扱えば、気になるのは当然。

のはずが、この聖騎士は、

「承知しました」

と答えて、それ以上の追求をしなかった。

与えられた職務にのみ忠実と言うことなのか。それとも、司令官は派閥が違うから放置するのか。理由はよく判らないし、ほんとにそれで良いのか? とユーナは思わなくもないが、とりあえず、余計な問答に時間を割いている場合でも無い。

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