表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
566/664

急襲3

拠点となっている建物を出ると、少し距離を置いて、多くの松明の明かりが燃えていた。

その中で時折、暴発するように炎が上がる。フラグランティアの炎だと思われた。彼女が騎士達を殺していないか、一瞬、不安が過るユーナだが、フラグランティアはこれまで自ら約束を違えたことはない。だから、上手くやってくれているだろうと思い直し、自分の成すべき事に意識を集中する。

「北の包囲をすみやかに突破しましょう。そうしないと、他の方角に配置された敵が集まってきて、動けなくなります」とアンナが進言をくれる。

「聖騎士って、確か金属の鎧を着てたよね?」

聖堂教会本部で何度も見かけていた、白を基調とした鎧を着た連中が聖騎士と呼ばれているはず。

「はい、鉄製のフルプレートです。彼らは任務中は、必ず鎧を着ています」とアンナの答え。

「だったら、ちょうど良い。久しぶりにやってみるわ」

ユーナが言っているのは、金属の〈氷結(フリーレン)〉。子供の頃に試して知ったことだが、金属は冷やすと脆くなる。

もっとも、脆性を引き出すまで低温にすると、恐らく鎧を着ている人間の命に関わる。なので、手加減が重要なのだが。

ユーナももう、幼い頃とは違う。これでも持力の精密操作は、ずいぶんと鍛錬したのだ。

目前に広がる松明の辺りを意識して、ユーナは持力を広域に放つ。

すると、松明の下は騒ぎになり始めた。

「行こう。ニキア、敵対する相手だけ無力化して」

「言われなくても!」

ニキアが、細身の反った剣を抜き放ち、松明の方へ走り始める。ユーナ、クリス、アンナもそれに続く。

ユーナ達が接敵した時には、聖騎士達の陣形は崩れに崩れ、もはや戦闘どころの騒ぎではなかった。

それでも、

「監視官が紛れ込んだぞ! 捕らえろ!」

と声が掛かり、寒さに凍えているはずの聖騎士達が数人、近づいてくる。中には鎧を、チェインメイルまで脱いで、ほぼ下着だけという出で立ちの者もおり、ユーナ的にはその忠誠心は立派と褒め称えたいところだが、下着姿の男性では、視線を向けるのに支障がある。

クリス、アンナもそんな気後れがあったが、ニキアだけは違う。

「あはははははは、行くぜ、おっさん!!」

久しぶりに見る、ニキアの戦闘時高揚(ハイテンション)

彼女が握るのは、帝国で一般的な両刃片手剣ではなく、片刃の反った剣だ。なんでも、東方からの留学生からもらったもので、使いこなすための剣術も手ほどきを受けたとか。

こっちの方が、斬ると気持ちいいんだよね! とまるで殺人狂のようなことを自慢していたのを、ユーナは思い出す。

テンション高いニキアが、相手を殺すのではないかと不安を覚えていたユーナだが、それも杞憂に終わる。

すらっと、流れるような弧を描き、片刃剣が上から下へと振り下ろされる。実際にはかなり速い動きのはずが、ユーナの目にはいやにゆっくりと映る。それだけで、敵の何かが斬れたとも思えないような剣裁き。

しかしニキアの剣は、確かに斬っていた。

騎士ではなく、騎士が持つ剣を。横に真っ二つに。

だというのに、ニキアの剣は折れるどころか、曲がりさえしていない(元々、反っているので、気付けないだけかも知れないが)。

「柔いな、おっさん!!」

剣を斬られた騎士は、呆然として、先がなくなった剣を見つめるばかり。その顔に戦闘を継続する意志は感じられない。

戦場で唯一の頼みとする武器を、敵の武器によって駄目にされたのだから、ショックは大きいのだろう。

無力化という意味では、ニキアのやり方は効果的だった。

「先に進みましょう」

一番冷静なアンナが声をかけると、ユーナにとっては物凄く意外だったのが、ニキアが、

「おう!」

と素直に従ったことだ。

それがあり得ないことに思えたので、聖騎士達の包囲を突破したところで、ユーナがニキアに、

「珍しくあっさり引いたわね?」

と聞くと、ニキアは気まずそうな表情をして、

「実はこの剣、カタナって言うんだけど、借り物なんだよね……」

と頬を掻く。

「あー、そういうことね」

いくら相手の剣を斬るような凄い剣でも、使い続ければ駄目になる可能性が高い。多分、そのカタナを作製する技術は帝国に無いだろうから、壊れたからと新しい物で弁償というわけにも行かない。

「それに、師匠から『刀とは武士の心である』って聞いてるからね……」

ユーナにはその師匠の言葉の真意はよく判らないが、ともかく、ニキアの暴走を防ぐ切っ掛けになったのなら、それで良いと思うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ