頑ななフロリアンとダールバイ教聖堂教会の内情2
そう結論し、助け舟は無いかと視線を移すと、フロリアンの背後にいるユーナの護衛騎士、カールとオリヴィエが目をキラキラさせているのが目に止まる。カールはさらに、こくこくと頷いて見せている。
ユーナはカールとは付き合いが長い。ゆえに、それだけで、カールの言わんとするところを理解できてしまう。
とりあえず、護衛騎士ふたりが目を輝かせているのは、フロリアンの思いと覚悟に同じ騎士として感動している所為。
そしてカールが頷いているのは、そんなフロリアン騎士道精神に、ユーナが応えるべきだと訴えているのだ。
つまり、身内にも馬鹿が付く奴が居たわけだ。
ユーナはもう一度、ため息をつく。
だが、残念ながら、カールの訴えにそのまま応じるわけにも行かない。
ユーナはアンナの方へ目を向ける。
困ったときの神ならぬアンナ頼み。
ユーナはそこに望みをかけるしかなかった。
アンナは、ユーナの意を汲んでくれたかのように、こくりと、ユーナに頷いてくれる。
「オドネル騎士、と呼ばせていただきますが、あなた様の意志と覚悟は、ユナマリア様も理解なさいました」
ユーナを代弁するアンナの言葉に、フロリアンは少しだけ表情を崩す。
「あなに敬意を表し、ユナマリア様はあなたの意志を受け入れるでしょう」
えっ?
とユーナが待ったをかけるよりもコンマ数秒早く、アンナが、
「ただし」
と付け加える。そして、部屋に集まる全員を見回し、告げた。
「この事は、この場に居る者のみの秘密としなければなりません。ユナマリア様配下の者たちに否やはないでしょう。オドネル騎士も。ですから、」
とアンナが目を向けたのは、カリンとリディア。
「カリンさんとリディアさんは、この場での出来事を、誰にも話さないと約束出来ますか?」
「はい」とカリンが答え、「だいじょぶっ!」とリディアが答える。
カリンはともかく、リディアなどうなのかね?
と不安を覚えたのは、ユーナだけではあるまい。だが、リディアからの漏洩を危惧するより前に、リディアが『この場の出来事』が何を意味するのかを理解できていない可能性が高い。その意味では、ぽろっと言ってしまうなんてことも、起こらないとは限らないのだが。
アンナは、それ以上のことをリディアに求めず、ユーナもそれで良いと思って口を出さなかった。
リディアという女の子は、思考が突飛で、何を仕出かすか判らないところはあるが、信頼にはきちんと応えてくれる子だと、判っているから。
「では、皆の同意の下、この場のことは秘密とし、けっして他に漏らさないように」
ユーナ以外の全員が、何の躊躇いもなく頷いた。
「と言うことですので、ユナマリア様、仮の騎士任命を騎士フロリアン・オドネルにお願いいたします」
フロリアンは居ずまいを正し、ユーナの言葉を聴くためにビシッと拝礼の体勢を取った。
「……わかりました」
対するユーナの返事には元気がない。
アユーナが収拾できないと思った状況を、アンナは確かにまとめてくれた訳だが。
思ってたのと違う……
これである。
ユーナとしては、オドネル騎士の『宣誓』自体を無かったことにしたかったのだが。
現状は、仮とは言え、『宣誓』を受けなければならないことになっている。
しかし、アンナに任せたのはユーナ自身。ゆえに、アンナの行いはユーナの責任。
これをひっくり返してしまうと、状況が混乱するだけでなく、ユーナは貴族としても、友人としても信頼を失うことになりかねない。
もはや、腹をくくるしかない。




