翌朝の事態進展4
「それは良かったな。では……」
とフラグランティアが言い掛けたのを遮って、獣人ハーフの少女が、
「たっ、助けてください!」
とフラグランティアに縋り付こうとする。
ゼロティピアは、咄嗟に、少女が伸ばした手の動きを止めた。
助けを求める相手に触れようとするのは、自然な行為ではある。だが、相手が悪すぎる。虫の居所が悪ければ、少女は即座に燃やされてしまうだろう。フラグランティアの発言を遮っているのだから、尚更のことだ。
ゼロティピアの制止は、それを懸念してのことだ。しかし。
「どうした、ゼロティピア?」
と、フラグランティアは不思議そうにゼロティピアに問う。少女の行動を意に介した様子もない。このフラグランティアの反応はゼロティピアには意外、というより想定外だった。
ゆえにゼロティピアは驚きのあまり動揺したが、それは表には極力出さず、平静を装う。
「触れられるの、お嫌かと思いまして……」
「ふむ。まあ、こやつに触れられたくらいで、何が変わるわけでもあるまい」
「そう、ですね」
「では、行くぞ」
フラグランティアの掛け声の下、精霊の3人は歩き出そうとする。それを止めたのは獣人ハーフの少女。
「あ、あのっ!」
躊躇いながらも声を張り上げて静止する。
「なんだ?」
振り向いて応じたのはフラグランティア。
「お願いです、兄の遺体を弔わせてもらえませんか?」
そうして少女が指差すのは、ゼロティピアの風に巻き込まれた男の獣人ハーフの下半身部分。
遺体の一部であっても、ちゃんと葬ってあげたい、そんな精神性が、この獣人ハーフにはあるということ。
これは、獣人にはあり得ない。つまり、人間の特性を引き継いでいる、ということなのか。
「土に埋めてやる時間の余裕はない。炎ですべてを灰にすることならできるが、どうする?」
ゼロティピアの知る昔のフラグランティアからしてみれば、随分とお優しい発言に思える。
獣人ハーフの少女はほんの少し逡巡したが、すぐに決意し、
「それでお願いします!」
と叫ぶように告げる。
「判った。ならば、祈れ」
フラグランティアの指示に、獣人ハーフの少女は手を組み、目を瞑る。
それを確認すると、男の獣人ハーフの遺体は一瞬で炎に包まれ、本の数秒ですべてが灰になった。
少女は目を開け、組んだ手を解く。
「これで良いな?」と確認するフラグランティアに、少女は、「はい、ありがとうございました!」と礼を言う。
「では行く。付いてくるが良い」
そう言うと歩き出すフラグランティア。
「高速移動は使わないのですね?」
確認のつもりでゼロティピアは訊いてみた。
「それでは、あの者が付いて来れまい」
「確かに、おっしゃる通りですわね」
何を当然のことを? と言いたげな表情のフラグランティア。
それを見て、なんとなく安心感を覚えるゼロティピア。
クリュオは、そんな2人を無表情に見ていた。
「このような経緯がありまして、昨晩の獣人ハーフの1体を、我々が匿っております。その扱いについて、指示を仰ぎたく」
「指示……って言われてもね……」
ユーナに取ってみれば、寝起きに面倒事が降って湧いたようなもの。眠気が覚めたのは良いが、逆に頭が痛くなりそうな問題だ。
かと言って放置すれば、フロリアヌス助祭の責任問題になる気がする。アンナを助けれてくれた彼の失態になるようなことは避けたい。
みんなの意見を聞きたいところだが……。
「……」
ユーナはふと思い至り、フラグランティアをまじまじと見た。炎の精霊のイメージとはかけ離れた銀髪。瞳の色は今は金だが、それさえ蒼になれば容貌は若手の女呪猟士『ランティエ』と変わりない。




