精霊達の謝罪2
「いえ、フロリアヌス助祭のお陰もあり、対処できましたので問題ないです。それに今回のことは、わたしの失態ですから」
アンナはその場の全員に対して、すでに昨日になった聖女教育の講義で、どんなことがあったかを話して聞かせ、続けて言った。
「これは、先方の目を私に向けるという意味がありました。そうすることで、ユーナさんが動きやすいように。ですがまさか、その日の深夜に襲ってくるとは思いませんでしたね」
「ちょっと、アンナ? 聞いてないわよ!」
ユーナは驚いて思わず声を大きくする。
「はい、言ってませんので」
対するアンナは平静そのものだ。
ユーナはため息が出る思いだった。
ここでアンナのやり方に文句を言っても、あまり意味が無いことはユーナも承知している。アンナにはアンナの思惑があったわけだし、今回はたまたま外れてしまったが、その思惑にユーナ自身、何度も助けられている。なので、
「危ないことはしないでね」
ユーナは、そう言うのが精一杯だった。だと言うのに、
「確かに、思慮深いアンネッテ殿とは思えない軽率さでしたね」
「ゼロティピア!」
フラグランティアが非難ぽく制止するが、ゼロティピアは、軽く礼を取っただけで、悪びれることなく言葉を続ける。
「ですが、軽率というなら、敵の方がもっとそうです。こんなにすぐに襲ってくるなんて」
「それに、暗殺者が素人というのもおかしなことです」とアンナ。
「そうですわね」とゼロティピアも肯定する。
「どういうこと?」
「そのままの意味ですわ、ユナマリア様。2人の獣人がアンネッテ殿を襲いはしましたが、両名とも、ナイフの扱いも知らない素人でした。それに、」
とそこまで言って、ゼロティピアは躊躇い気味にフラグランティアの様子を窺う。
フラグランティアが、了承したと言う目配せを返したので、ゼロティピアは先を続ける。
「獣人と申し上げましたが、正しくは違います。人間とのあいのこ、……要は雑種ですわ」
「あいのこ……」
呟いて、ユーナは絶句する。それはアンナも護衛騎士の2人も同じだった。
ゼロティピアはあっさりとなんの感情もなく言ったが、その意味するところを考えてしまうと、言葉を失わないではいられない。
父または母が人間の獣人が存在するという事実。
獣人もまた魔族に数えられるこの世界では、『魔族のハーフ』ということであり、人間のユーナ達にとっては、まったく想像すらしたことのない事態と言えた。
それは違う意味で、ゼロティピア達にも同じだった。
「わたくしどもの時代には、禁忌と言われ、忌み嫌われておりましたのに。主に人間の方々から」
呆れたようなため息と共に告げるゼロティピア。
その様子に、ユーナもアンナも、もう少し詳しく聞きたい気持ちが湧いてくるが、話が長くなりそうな上に、難しい話になりそうに思える。
ユーナはそう想像ができてしまった時点で、聞くのを諦め、アンナは聞くこと自体は乗り気だったが、今この場ではないと思い、同様に諦める。
そんな人間側の考えを知ってか知らずか、ゼロティピアは特に気にした様子も無く話を続けてしまう。
「獣人に限らず、現在、『魔族』とされる種族には、被造物としての印が施されていまして、これは生まれた子供にも遺伝します。しかし、人間との雑種となると、その印が遺伝するかどうかは2分の1の確率。実際、遺伝していたのは先ほどの個体2体のうち、雄の個体だけでした」
「う、うん……?」
ゼロティピアが何を言いたいのか、ユーナ達にはよく判らない。




