精霊達の謝罪
アンナはほっとしてフロリアヌス助祭の方へ向き直る。
「フロリアヌス助祭、ご理解いただいているとおり、この2人はユナマリア様の配下です。詳細をお望みなら、時と場所を変えてでは、いかがでしょうか」
フロリアヌス助祭は眉間を皺を寄せたが、
「ともかく、今ではないことは承知しました。説明をいただく機会は、いったん、私のみとさせていただきたく」
と条件を告げてくる。
これは、アンナの側にも好都合だった。フロリアヌス助祭は、説明は自分だけが聞く、つまり、この事件をすぐに上層には報告しない、と言っているのと同じだからだ。彼がそうしたい理由は、探る必要があるだろうけれども。
「承知しました。その機会はユナマリア様を通してもうけさせていただきます」
「感謝いたします」
「……では、この獣人たちはどうしますか?」とアンナ。
「こちらでお預かりします。牢へ入れ、事情を聴取いたします」
「……2人とも話せないようですよ」
「……ともかく、預からせていただきます。この者たちは、ここに居るはずのない者たちですから」
それを言うならクリュオ達もそうだが、お目こぼしと言ったところか。色々と注文を付けることで話がややこしくなるのは避けるべきだとアンナは考え、
「わかりました」
と提案に応じた。
「クリュオさん、フロリアヌス助祭が抑えている獣人を紐で物理的に縛っていただけますか? 紐はカーテンを裂いて作っていただけると」
「そのアンナ様が押さえている方の雑種はどうしますか?」
クリュオはさっそくカーテンを裂きながら確認する。
「フロリアヌス助祭、そちらが捕縛できたら、お願いします」
「心得ました」
そんな風にして、2体の獣人を縛り、フロリアヌス助祭が連行していった。
去り際にフロリアヌス助祭は、
「お部屋の変更を管理する者に告げておきます」
と言った。窓が無くなり、物が散乱したこの部屋は、少々、寒くなっていた。
フロリアヌス助祭が居なくなると、代わりに壊れたドアを跨いで現れたのは、ユーナと護衛騎士の2人。
全員、窓が割れた音で異変に気付き、駆けつけていたのだが、その時にはすでに獣人は2人とも抑えられており、(実はクリスとニキアも駆けつけていたが、人数が多いと混乱するという理由でカールが自室に戻らせている。もちろん、説明は後でするから、と言い聞かせて)。
フロリアヌス助祭とユーナが顔を合わせれば、説明を求められるのは必至。なのでユーナはフロリアヌス助祭が部屋から出たときには隠れていたくらいだ。
全員が部屋に入ったところで、不意に部屋の中に3人目の精霊が現れる。それは、3人の精霊族のうち、最後の1人フラグランティアだった。
「ユナマリア様、任務を遂行できなかった我々に、どうぞ罰をお与えください。ですが、その前に、アンネッテ殿に謝罪する時間をお許しください」
「判りました」とユーナは頷くが、本当のところは判っていない。
「アンネッテ殿、不甲斐ない我らをどうか許して欲しい」
アンナに向き直ると、フラグランティアは頭を下げた。
ゼロティピアは、大きく目を見開いてフラグランティアを見ていたが、すぐに思いだしたように、同様に頭を下げた。
クリュオもそれに続く。
3人は、ユーナの友人たちの護衛、そして万が一、カールたち護衛騎士の手に負えない問題が発生したときの対応を任されていた。その意味で、獣人の侵入を許し、あまつさえ全く対応できなかったのは、落ち度があったと認めざるを得ない。
だが、たとえそうだったとしても、プライドの高いフラグランティアが頭を下げるのは珍しいことだ、ランティエの時ならいざ知らず。
ゼロティピアが驚いたのはそのためである。神代の頃のフラグランティアならば、頭を下げるなど絶対しなかった。それほどに神代の彼女はプライドが高かったのだが……フラグランティアもまた、人間との関わりの中で変わってきている、と、そう言うことなのだろう。
ゼロティピアにとっては現在のフラグランティアの方が好ましく思える。仕える相手として。また、仲間として。
さて、そんな風にフラグランティアは謝罪したわけだが、アンナは軽く首を振る。




