人ならざる者たちの攻防〜その2の2
「ゼロティピアは聖職者の館に向かう集団を潰せ。クリュオはここに来る集団を相手にしろ」
フラグランティアが指示を飛ばす。
「あなた様はどうなさるお積もりですか?」
聞くまでも無いこととは知りながら、ゼロティピアが一応訊ねる。
「わたしは敷地外の集団を追う。この程度の敵、一瞬で終わらせるぞ」
「御意にございますわ」とゼロティピア。
「……畏まりました」とクリュオ。
フラグランティアが無言で頷いたと思うと、その姿が掻き消える。タクラス市街に向かったようだった。
「さて、わたくし達も取り掛かりましょうか。良いこと、クリュオ。くれぐれも手落ちなどないようにね」
「もちろんです」
今度はゼロティピアの姿が掻き消える。
残されたのはクリュオのみ。
しばらくして、敵の集団が、クリュオの前に現れた。
クリュオの迎え撃つ敵は2角鬼をリーダーとして3角鬼、獣人の混成部隊。いずれも、パワーよりはスピードで勝負するタイプのようだった。
クリュオの少女のすがたを認めた鬼族と獣人は、一瞬、呆気にとられた雰囲気だったが、徐々に悪意を含む気配に包まれていった。彼らにも仲間意識や悲しさという感情はある。これまでに何人もの仲間が倒されていることを思えば、目の前のひ弱そうな少女にその怒りと憤りをぶつけることができれば、少しは溜飲も下がる。
そんな考えにもならない考えが、彼らの脳裏にあったことは確かだろう。
しかし、命のやり取りをする時に、敵を見誤ることは自分の命を無くすことに直結する。
クリュオはただ黙って立っているだけだったが、その静かさもまた、彼らの誤解を生んだのかも知れない。
突如、彼らの中から、宙に飛び上がって前に出ると、そのままクリュオに飛びかかろうとする鬼がいた。
鬼はそのままクリュオに駆け寄り、鋭い爪を突き立てようとする。
しかし、それが成就するよりも前に、その鬼は足を止め、そのまま、ばたりと銅瓦の屋根の上に倒れ、動かなくなった。
鬼達には、何が起きたのか判らない。
ただ、目の前の、この少女の姿をした存在が、その姿通りのか弱い存在ではないことを、思い出していた。
リーダーの2角鬼が即座に命令を出すと、獣人が3体、同時にクリュオに向かって駆け出す。3体は三方に別れて同時攻撃の体制を取ろうとするが、この3体もまた、不意にがくりと膝をつき、上半身を瓦屋根に叩きつけるように倒れた。
リーダーの2角鬼には、クリュオの攻撃が判らないことが問題だった。まず、人間を遙かに上回る動体視力を以てしても、クリュオの動きが視認できない。2角鬼の認知能力の範囲では、クリュオはまったく動いていないのである。しかし、味方は殺されている。あと数体を同じように犠牲にすれば、もしかすると認識でいるかも知れないが、その数体を失えばその時点で趨勢は決してしまう。迂闊な決断はできない。
リーダーの2角鬼は、そこまでは頭の回る個体だったのだが。
「何者ダ、オ前……」
擦れた声が、2角鬼の口から漏れ出た。
「それすら知らずに姿を見せたと言うことですね」
「タダノ人間デハナイナ」
「わたしは人ではありません。それにしても。情報を収集もせずに敵に当たるというのは、豪の者のゆえの愚かさ……いえ、ただの愚か者ですね」
クリュオは、特段、相手を挑発するつもりもなかったのだが、2角鬼をカッとさせるには十分な台詞だった。
「ホザクナ!」
2角鬼が雄叫びのような号令をかける。それは一斉攻撃の合図。2角鬼を除く5体の鬼と獣人が、左右と上に分かれ、一斉にクリュオに飛びかかる。




