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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
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人ならざる者たちの攻防〜その2の1

「アンネッテ・コーウェル! あなたの考えは悪魔的です! あなたが居る場所で聖なる教育など不可能です! あなたがいる限り、わたくしは講義を拒否します!」

そう言い捨てると、カタリノフォラは部屋から出て行った。

残されたのはアンナとカリン。

「1つ訊いても良いですか?」とカリン。

「何でしょう?」

「どうして風聖様に、挑戦的な言い方をしたんですか? その、あまり……」

「わたしらしくない、と言うことは理解していますよ」とアンナ。

「だったらどうして?」

「試してみたかったのです、いろいろと」

研究者のアンナとしては、違う歴史を教えることの意義を聞かせてもらいたかった。歴史とは解釈や立場によっては同じ事実でも違って見えることがあるものだ。だが、ダールバイ教の歴史は、そもそも事実を変えているように理解できた。その理由を知るために、あえて反論を試みていたのだ。結果として何も回答は得られなかったが。

また、監察官書記の立場のアンナとしては、こうすることで、ここのところ停滞していた、先方も動きが活発化するだろうという目論見がある。こういう搦め手のようなやり口は、アンナ個人としては好きではないが、誰かがやらなければならないなら、思いついた自分がその役を買って出るべきだ。

と、そうアンナは思っていた。

「それだと、アンナさんに不利益になると思います」

「はい、それも含めて考えてのことですから」

「……わたしが必要になったら、躊躇わず呼んでください」

「ありがとうございます」

謝意を述べはしたが、この予言めいたカリンの言葉の本当の意味を、アンナは察することができなかった。


再び、深夜。

本聖堂の大きなドーム屋根の上に、また、3つの人の影があった。

この場所は聖堂教会の敷地のほぼ中心にあり、また一番高い場所でもあるため、周囲の見晴らしが良く、人の動きを監視するには都合が良い。もっとも、ただの人間ならば、そんな場所に行くことさえ難しいので、監視場所にはとても適さないし、灯り1つない深夜の現在は、さらに適さないと言える。

ただ、そんな余計な明かりの無い夜なので、暗い空に浮かぶ星々がとても綺麗に見える。……そのことに気を止めるのは、今のこの場に居る3人の中では、ゼロティピアのみに限られるのだが。

そして今夜も今夜とて、魔物の動きは活発だった。

3人が立つ場所に向かう魔物の集団が1つ。

そして、聖職者の居住館に向かう、別の魔物の集団が1つと、新たに町の方から敷地に向かってくる集団が1つ。そのどれもが、2角以下の鬼が主体で、戦闘の相手としては力不足。だが、

「今夜は少し、考えを巡らせたようだな」

冷静につぶやくフラグランティアの言葉には、相手を評価しているようでいて、少しだけ、呆れが混じっている。しかしそれも当然と言えば当然と言える。というのも、毎晩、襲ってくるのは2角以下の鬼族ばかりなのだから。3人は毎晩、律儀にそれを撃破している。つまり敵側は、2角以下の鬼族では、刃が立たないことを、すでに承知しているはずなのだ。

だと言うのに、相も変わらず、その力不足を投入してくる愚かさ。フラグランティアの呆れはこれに起因するものだ。

だが今夜は、同じ戦闘力とは言え、その集団を3つに分けて投入してきている。3人の居る場所に向かう集団とそうでない集団があるのは、3人の分断を図るためと推測できる。

しかし、その戦略がどれ程の功を奏するかと言えば、はっきり言って昨日までと差は望めないのが実情だ。なにしろ、3人は人だったとしても、その集団の1つを撃破することは容易く出来てしまう。これが神代の2角鬼だったなら、もっと手強く油断できないのだが、現代の2角鬼の戦闘レベルはかなり低い。

それでも少しは頭を使っている分、進歩と言えた。

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