教皇とのお茶会2
「彼は迷惑になっていないかね?」
「いえ、そんなことは。よくしていただいていると思います」
と言っても、案内係としての彼しか、ユーナは知らないのだが。それを聖職者の頂点たる教皇が知らないとは思えないが、それとも、何かの鎌かけなのだろうか? 他に言えることもないので、ここは黙っていると、
「フロリアヌスは異色の出自でね。帝国の騎士であったものが、その地位を捨てて聖職者の道に進んだ」
「やはり、そうなのですね。助祭の立ち居振る舞いは、武人のそれでしたから」
「さすが『凄槍』で名高いリーズのご令嬢。ま、それもあって、フロリアヌスは護衛も兼ねているのですよ」
「そうですか……」
「……」
フロリアヌス助祭については、何となくまだ裏がありそうだが、それ以上を教皇が話してくれることはなさそうだ。
「ユナマリア嬢から見て、カリン・カイラスの様子はどうですかな?」
「真面目に聖女教育を受けていますよ。カリンに関しては、こちらから少々伺っても?」
「構わんが?」
「教育が終了したら、カリンは『四聖徒』に組み入れられるのでしょうか?」
ユーナの問いに、教皇はわずかに目尻の皺を寄せて見せる。その表情は、どうやら気分が良いときのもののようだった。
「ユナマリア嬢は、聖人も格による区分があるのをご存知だろうか?」
「いえ。浅学で申し訳ございませんが」
「いやいや、そんなことは無い。貴族のご令嬢が国教でもない宗教の規定まで詳しいとは思わなんよ」
ユーナはこくりと頷いて、教皇の次の言葉を待つ。
「聖人と言っても、大きく『至聖人』と『聖人』に別れる。『聖人』とは、世俗の身分にありながらも神々の教えに忠実であった者、もしくは奇跡を成した者を言う。『四聖徒』はこれに当たり、生きながら聖人として聖別された者を言う」
「……はい」
「対して『至聖人』とは、聖人の条件に加えて神職にあった者が聖別される。あるいは、」
と教皇は一瞬、間を置いて言葉を続ける。
「神々の生まれ変わり、または神々の使徒たる役目を負った者が該当する。……カリン・カイラスは、この『至聖人』に聖別される資格があると、私は見ている」
教皇が、問いかけるような視線でユーナを向けてくる。この言葉の意味が判るか? そう言われているように思えた。
「1つ、いえ2つ伺いたいのですが、まず、『聖人』は神職に当てはまりますか?」
「生きている聖人ならば、その通りだ」
「では、2つ目。『聖人』となった後に『至聖人』になることはあり得ますか?」
「無いな、慣例上は、無い」
答えた教皇は聖職者には似つかわしくない、挑戦的な笑みになる。
それらの返答から察するに、カリンが聖職者となった後に『至聖人』に聖別される可能性は無いということになる。つまり、2つある『至聖人』となるための資格の1つ目は、カリンには当てはまらない。
「と言うことは、カリンは神々の生まれ変わりか、さもなければその使徒と言うことですね?」
教皇は、欲しい言葉を聞けたとばかりに、にこりとする。
しかし、術士の立場にあるユーナにとって、『神々』は存在しない。ゆえに『神々の生まれ変わり』というのも存在し得ないと考えるべきだろう。
となると、神々の使徒となるが、これも『神々』が存在しない以上、その使徒も存在し得ない。ただし、使徒と理解されても仕方ない場合というのはあるのだろう。奇跡としか思えないような事績が伴えば、それはもう人間の所業を超越してしまう。神々の存在に関わらず、だ。
そしてカリンの癒しは、十分にそれに該当する。
「カリン・カイラス、彼女はおそらくは使徒であろうな」
教皇はあっさりとそう認めた。




